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家の近所にある小さな神社は、お正月なのに人がまばらだった。
「意外とここ穴場っぽくない?」
「確かに。あんまり人が来ないのかもしれないね」
「いやあ、こういう近くにいる神様にこそ感謝すべきだよ。そう思いません?」
「なんか有識者みたいな話しぶり」
「日常を大事にする男なの。俺は」
別に海外に転勤したわけではなかったのだから、物理的には会おうと思えば会えた。でも、お互いの仕事休みがなかなか被らなかったり、繁忙期でそれどころではなかったりで、結局会えたのはこれまで両手で数えられるほどの回数だけだった。連絡は毎日とっていたけれど、実際に顔を合わせるのは久しぶり。でも、毎日会えていたときとなんら変わらないように会話をすることができる不思議。だからこそ遠距離でも関係を継続してこられたのかもしれない。
御賽銭を入れて、二人並んで手を合わせる。
しかし、静かに目を閉じると、先日職場の忘年会で言われた言葉がふと頭をよぎった。
『遠距離恋愛って、別れる確率80%超えてるらしいっすよ』
みんなお酒がすすんで、産休の取得率がどうとか、まずは結婚だとか、一歩間違えばハラスメントでは?と思うような内容ばかりになってきたところで、一つ年下の後輩が何気なくそう言ったのだった。まさに私が今遠距離恋愛中だなんて思ってもいないような口ぶりで。
『だって会えないのが一番辛くないすか?俺、基本的に恋人とは毎日会いたいタイプだからしんどいと思いますわ』
それを聞いたときには、「そうなんだ」とか適当に返したような記憶がある。それから、近くに座っていた結婚10年を超える先輩が『今はそんなこと言ってたって、そのうちに毎日顔を合わせるのもしんどくなってくんのよ!』と返すのを笑いながら聞いていた。
でも、正直結構ぐさっときた。自分はどうだろうか、そして、他ならぬ孝哉はどうだろうか、と。そういう話をのんびりするチャンスも、当然のことながら最近は全くもてていなかった。
元々人懐っこくて誰とでも仲良くなれる明るいタイプの孝哉と、それほど人付き合いが得意ではない私が付き合うことになったことも、そもそも奇跡なのだ。私たちは「別れなかった二割」の中に入れるのだろうか。それとも。
そんな考え事をしていたせいか、かなり長い時間手を合わせてしまった。顔を上げると、隣で同じように手を合わせていた孝哉がなぜだかにやにやしながらこちらを見ていた。
「長かったね。何お願いしたの?」
「…そういうのってあんまり言わないほうがいいんじゃないの?」
「えー、俺と葵の仲なんだから別によくない?ちなみに俺はね…」
「い、言わなくていいから!」
耳元に顔を寄せて言おうとするから必死に止めると、孝哉はあははと笑う。その笑顔がやけに眩しくて、じっと見入ってしまうと、彼は独り言のようにぽつりと呟いた。
「…まぁ神様に頼まなくても自分で叶えるよ。俺は」
後ろから人が近付いてきたので横にずれて再び手を繋ぎ直す。「じゃあ帰ろうか」と私の手をにぎにぎと握りながら彼は当たり前のようにそう言う。こんなやりとりをするのはいつぶりだろうか。なんだか感慨深い思いになりながら二人で並んで帰路へとついた。
「意外とここ穴場っぽくない?」
「確かに。あんまり人が来ないのかもしれないね」
「いやあ、こういう近くにいる神様にこそ感謝すべきだよ。そう思いません?」
「なんか有識者みたいな話しぶり」
「日常を大事にする男なの。俺は」
別に海外に転勤したわけではなかったのだから、物理的には会おうと思えば会えた。でも、お互いの仕事休みがなかなか被らなかったり、繁忙期でそれどころではなかったりで、結局会えたのはこれまで両手で数えられるほどの回数だけだった。連絡は毎日とっていたけれど、実際に顔を合わせるのは久しぶり。でも、毎日会えていたときとなんら変わらないように会話をすることができる不思議。だからこそ遠距離でも関係を継続してこられたのかもしれない。
御賽銭を入れて、二人並んで手を合わせる。
しかし、静かに目を閉じると、先日職場の忘年会で言われた言葉がふと頭をよぎった。
『遠距離恋愛って、別れる確率80%超えてるらしいっすよ』
みんなお酒がすすんで、産休の取得率がどうとか、まずは結婚だとか、一歩間違えばハラスメントでは?と思うような内容ばかりになってきたところで、一つ年下の後輩が何気なくそう言ったのだった。まさに私が今遠距離恋愛中だなんて思ってもいないような口ぶりで。
『だって会えないのが一番辛くないすか?俺、基本的に恋人とは毎日会いたいタイプだからしんどいと思いますわ』
それを聞いたときには、「そうなんだ」とか適当に返したような記憶がある。それから、近くに座っていた結婚10年を超える先輩が『今はそんなこと言ってたって、そのうちに毎日顔を合わせるのもしんどくなってくんのよ!』と返すのを笑いながら聞いていた。
でも、正直結構ぐさっときた。自分はどうだろうか、そして、他ならぬ孝哉はどうだろうか、と。そういう話をのんびりするチャンスも、当然のことながら最近は全くもてていなかった。
元々人懐っこくて誰とでも仲良くなれる明るいタイプの孝哉と、それほど人付き合いが得意ではない私が付き合うことになったことも、そもそも奇跡なのだ。私たちは「別れなかった二割」の中に入れるのだろうか。それとも。
そんな考え事をしていたせいか、かなり長い時間手を合わせてしまった。顔を上げると、隣で同じように手を合わせていた孝哉がなぜだかにやにやしながらこちらを見ていた。
「長かったね。何お願いしたの?」
「…そういうのってあんまり言わないほうがいいんじゃないの?」
「えー、俺と葵の仲なんだから別によくない?ちなみに俺はね…」
「い、言わなくていいから!」
耳元に顔を寄せて言おうとするから必死に止めると、孝哉はあははと笑う。その笑顔がやけに眩しくて、じっと見入ってしまうと、彼は独り言のようにぽつりと呟いた。
「…まぁ神様に頼まなくても自分で叶えるよ。俺は」
後ろから人が近付いてきたので横にずれて再び手を繋ぎ直す。「じゃあ帰ろうか」と私の手をにぎにぎと握りながら彼は当たり前のようにそう言う。こんなやりとりをするのはいつぶりだろうか。なんだか感慨深い思いになりながら二人で並んで帰路へとついた。
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