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③
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「うわー綺麗。さすがだな」
玄関に入って荷物を置いて、慣れたように洗面所で手を洗った孝哉はリビングに入ると感嘆の声を上げた。
「社宅狭いし、今ごちゃごちゃしてるからさ。最近ほんとに寝に帰るだけみたいになってるよ」
「掃除する暇もないんじゃない?」
「まあそうだけど…でも、葵だって仕事してるじゃん。それなのにこんなに綺麗に保ってるのすごいわ」
「ありがとう」と頭を撫でられる。
二人で選んだ1LDKの部屋は、一人で過ごすのには少し広く感じることが多かったけれど、掃除だけは丁寧に、欠かさずにしてきたからそう言ってもらえると嬉しい。
「しかも何か美味しそうな匂いするし」
「年越しそば、ほんとは大晦日に食べなきゃだけど一緒に食べたいなと思ってまだ食べてないんだ。そのお出汁の匂いかな?後で一緒に食べようよ」
キッチンのコンロに置いたままだったお鍋の蓋を開けて中を確認していたその時だった。
「…葵」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返ると、正面からぎゅっと抱き締められた。背が高い彼と抱き合うときは私がかなり体を反らせないといけなくなることが多い。うっかりすると体勢が不安定になるので、いつも抱きしめる時は、少しかがみながら腰と後頭部を支えてくれるということを、実際にそうされることで思い出す。
うぅ…と小さな声で唸ってから、孝哉はぽつりと言う。
「…帰ってきたって感じする」
「…おかえり」
どうにかこうにか彼の背中に腕を回すと、こめかみに頬擦りされる。
「…駅で顔見た瞬間からこうしたくて仕方なかった」
「そ…う、なんだ」
「そうだよ。慢性的な葵不足だから俺」
「何それ」
甘えるように鼻先を頬に擦り付けられたのがくすぐったくてくすくす笑うと、「あ゛ー」と変な声をあげた彼に、力任せにぎゅうぎゅうと抱き締められる。
「マジで好き。ほんとに大好き。超会いたかった。葵のこと好き過ぎて、なんて言ったらいいのかわかんない。可愛いなぁ、俺の彼女。どうしてこんなに可愛いんだろー。イケメンの彼氏に愛されてるからかなあ。あー語彙力死んだ」
「ご、語彙力ないのなんかいつも……んんっ」
恥ずかしくて茶化そうとしたのに、それを許さないとでも言うように、乱暴に唇が重なった。
あ、これは…。
行為の始まりを予感させるような触れ方に背筋がぞくぞくする。
案の定、角度を変えて何度も食むようにキスをされて、そのうちにキッチンの壁に背中を押しつけられていた。
「ん…はぁ…」
「やべぇ、とまんない…」
箍が外れたようなその様子にちょっぴり緊張しながらも、口の中に差し込まれた舌に大人しく自分の舌を絡ませると、やっぱり体の奥から何かが溶け出してくるようで、もはやどうでもよくなってしまう。
私だって ずっと、こうしたかった。
愛する人との触れ合いに、体も心も、欲望に抗うことを早々に放棄する。
少し背伸びをして彼の首裏に手を回すと、そのまま子どもを抱っこするように持ち上げられた。不安定な体勢に、慌ててその逞しい腰に足を巻き付けると「…このまま挿れたくなる」と耳元で囁かれてお腹の奥が疼くような気がした。
…ずるい。どうすれば私がきゅんとなるのか、まるで全部知っているかのようだ。
私を抱き上げたまますたすたと歩みを進めた彼は、少しだけ開いていた寝室の扉を足で蹴り開けた。焦っているのか、どさりとベッドの上に一緒に倒れ込む。のしかかるように押し倒されて、その体の重みを堪能する。
「夜とか家帰ってから葵のこと考えるとさ、二人の将来のために仕事頑張ろうっていう気持ちと、仕事なんかしてる場合じゃないだろって気持ちがぐちゃぐちゃで頭おかしくなりそうだった」
首筋にぢゅっと音を立てて吸いつかれる。鎖骨あたりをべろりと舐められて身を捩ると、着ていたセーターの裾から入ってきた手が背中にまわり、ブラのホックを簡単に外されてしまう。彼との行為はどちらかというと穏やかで、ゆるゆると触れ合いながら進んでいくことが多かったのに、今日はあまりに性急だ。緩んだブラの隙間から大きな掌が入り込み、何かを確かめるように胸を揉んだ。
「あ…」
「ちゃんと本物だ…」
駅で言っていた「本物だ」は冗談めかしていたけれど、今度はなんだか本気のようで。
「ん、ぅ…本物…?」
「妄想じゃないってこと。頭ん中で想像するやつじゃなくて、実物なんだなって」
中に着ていたシャツとセーターを思い切りたくし上げられて、頭から抜かれる。肩に引っかかっていたブラも「こんなエロいやつ持ってたっけ?」とぼそぼそ言いながら取り去られた。
そりゃ会わない間に新しい下着のひとつやふたつくらい買うでしょうと思っていると、胸の先端をぱくりと口に含まれた。立ち上がった乳首を生温かい舌で転がしたりしゃぶられたりして声が出てしまう。唾液をまぶされたそこを指先で挟むようにくりくりと刺激されて、背中が弓形に反る。
「あっ…それ、ん…きもち、い…」
「…可愛い」
肩や脇腹を大きな掌が滑るように愛撫する。体の奥からじわりと何かが滲むような感覚に、足をもじもじと擦り合わせると、孝哉は私のスカートの中に手を入れた。タイツの上から、ぐりぐりと秘所を刺激される。
直接触られているわけではない。それなのにあまりにも気持ちよくて、その手に押し付けるように腰が勝手に動いてしまう。
「…腰揺れてるよ」
「ん…だって…」
目を細めて私の痴態を見下ろし、自分も着ていたパーカーを素早く脱ぐ姿に、怖くなるくらいどきどきした。
そんな私の顔を見てはぁっと溜め息をこぼした彼は、私の腕を引っ張って簡単に抱き起こす。そして、邪魔だから全部脱いじゃおう」と私が身に付けていたものをてきぱき取り去り、自分も一糸纏わぬ姿になってしまった。ちょっと恥ずかしかったけれど、お互いに裸になって肌と肌を触れ合わせると、久しぶりに味わうその体温の温かさが幸せで、くらくらする。彼の顎や喉仏にキスをすると、私の胸の谷間を指先がなぞるように辿っていった。
玄関に入って荷物を置いて、慣れたように洗面所で手を洗った孝哉はリビングに入ると感嘆の声を上げた。
「社宅狭いし、今ごちゃごちゃしてるからさ。最近ほんとに寝に帰るだけみたいになってるよ」
「掃除する暇もないんじゃない?」
「まあそうだけど…でも、葵だって仕事してるじゃん。それなのにこんなに綺麗に保ってるのすごいわ」
「ありがとう」と頭を撫でられる。
二人で選んだ1LDKの部屋は、一人で過ごすのには少し広く感じることが多かったけれど、掃除だけは丁寧に、欠かさずにしてきたからそう言ってもらえると嬉しい。
「しかも何か美味しそうな匂いするし」
「年越しそば、ほんとは大晦日に食べなきゃだけど一緒に食べたいなと思ってまだ食べてないんだ。そのお出汁の匂いかな?後で一緒に食べようよ」
キッチンのコンロに置いたままだったお鍋の蓋を開けて中を確認していたその時だった。
「…葵」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返ると、正面からぎゅっと抱き締められた。背が高い彼と抱き合うときは私がかなり体を反らせないといけなくなることが多い。うっかりすると体勢が不安定になるので、いつも抱きしめる時は、少しかがみながら腰と後頭部を支えてくれるということを、実際にそうされることで思い出す。
うぅ…と小さな声で唸ってから、孝哉はぽつりと言う。
「…帰ってきたって感じする」
「…おかえり」
どうにかこうにか彼の背中に腕を回すと、こめかみに頬擦りされる。
「…駅で顔見た瞬間からこうしたくて仕方なかった」
「そ…う、なんだ」
「そうだよ。慢性的な葵不足だから俺」
「何それ」
甘えるように鼻先を頬に擦り付けられたのがくすぐったくてくすくす笑うと、「あ゛ー」と変な声をあげた彼に、力任せにぎゅうぎゅうと抱き締められる。
「マジで好き。ほんとに大好き。超会いたかった。葵のこと好き過ぎて、なんて言ったらいいのかわかんない。可愛いなぁ、俺の彼女。どうしてこんなに可愛いんだろー。イケメンの彼氏に愛されてるからかなあ。あー語彙力死んだ」
「ご、語彙力ないのなんかいつも……んんっ」
恥ずかしくて茶化そうとしたのに、それを許さないとでも言うように、乱暴に唇が重なった。
あ、これは…。
行為の始まりを予感させるような触れ方に背筋がぞくぞくする。
案の定、角度を変えて何度も食むようにキスをされて、そのうちにキッチンの壁に背中を押しつけられていた。
「ん…はぁ…」
「やべぇ、とまんない…」
箍が外れたようなその様子にちょっぴり緊張しながらも、口の中に差し込まれた舌に大人しく自分の舌を絡ませると、やっぱり体の奥から何かが溶け出してくるようで、もはやどうでもよくなってしまう。
私だって ずっと、こうしたかった。
愛する人との触れ合いに、体も心も、欲望に抗うことを早々に放棄する。
少し背伸びをして彼の首裏に手を回すと、そのまま子どもを抱っこするように持ち上げられた。不安定な体勢に、慌ててその逞しい腰に足を巻き付けると「…このまま挿れたくなる」と耳元で囁かれてお腹の奥が疼くような気がした。
…ずるい。どうすれば私がきゅんとなるのか、まるで全部知っているかのようだ。
私を抱き上げたまますたすたと歩みを進めた彼は、少しだけ開いていた寝室の扉を足で蹴り開けた。焦っているのか、どさりとベッドの上に一緒に倒れ込む。のしかかるように押し倒されて、その体の重みを堪能する。
「夜とか家帰ってから葵のこと考えるとさ、二人の将来のために仕事頑張ろうっていう気持ちと、仕事なんかしてる場合じゃないだろって気持ちがぐちゃぐちゃで頭おかしくなりそうだった」
首筋にぢゅっと音を立てて吸いつかれる。鎖骨あたりをべろりと舐められて身を捩ると、着ていたセーターの裾から入ってきた手が背中にまわり、ブラのホックを簡単に外されてしまう。彼との行為はどちらかというと穏やかで、ゆるゆると触れ合いながら進んでいくことが多かったのに、今日はあまりに性急だ。緩んだブラの隙間から大きな掌が入り込み、何かを確かめるように胸を揉んだ。
「あ…」
「ちゃんと本物だ…」
駅で言っていた「本物だ」は冗談めかしていたけれど、今度はなんだか本気のようで。
「ん、ぅ…本物…?」
「妄想じゃないってこと。頭ん中で想像するやつじゃなくて、実物なんだなって」
中に着ていたシャツとセーターを思い切りたくし上げられて、頭から抜かれる。肩に引っかかっていたブラも「こんなエロいやつ持ってたっけ?」とぼそぼそ言いながら取り去られた。
そりゃ会わない間に新しい下着のひとつやふたつくらい買うでしょうと思っていると、胸の先端をぱくりと口に含まれた。立ち上がった乳首を生温かい舌で転がしたりしゃぶられたりして声が出てしまう。唾液をまぶされたそこを指先で挟むようにくりくりと刺激されて、背中が弓形に反る。
「あっ…それ、ん…きもち、い…」
「…可愛い」
肩や脇腹を大きな掌が滑るように愛撫する。体の奥からじわりと何かが滲むような感覚に、足をもじもじと擦り合わせると、孝哉は私のスカートの中に手を入れた。タイツの上から、ぐりぐりと秘所を刺激される。
直接触られているわけではない。それなのにあまりにも気持ちよくて、その手に押し付けるように腰が勝手に動いてしまう。
「…腰揺れてるよ」
「ん…だって…」
目を細めて私の痴態を見下ろし、自分も着ていたパーカーを素早く脱ぐ姿に、怖くなるくらいどきどきした。
そんな私の顔を見てはぁっと溜め息をこぼした彼は、私の腕を引っ張って簡単に抱き起こす。そして、邪魔だから全部脱いじゃおう」と私が身に付けていたものをてきぱき取り去り、自分も一糸纏わぬ姿になってしまった。ちょっと恥ずかしかったけれど、お互いに裸になって肌と肌を触れ合わせると、久しぶりに味わうその体温の温かさが幸せで、くらくらする。彼の顎や喉仏にキスをすると、私の胸の谷間を指先がなぞるように辿っていった。
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