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神楽とチユニ
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しおりを挟むそして歯を食いしばり、泣きそうな顔で何か言いかけたが口を閉じ、目も閉じてうなずいた。
やがて立ち上がったライトは1歩下がり、もう1歩下がり、見えなくなった。音が聞こえないのでどんな会話だったのかはほとんどわからないが、最後にライトが言ったことはわかった。
立ち上がる前に彼の口は「すみません。あとは頼みます」と動いていたのだ。
「ん、っ…………あ…………チユニ、さん?と、10番目……」
「カラス!?カラス、私がわかるんだねっ、あぁ、良かった。そのまま、起き上がろうとしないで。君は人間なんだから、完治するまで入院だよ」
カラスの意識が飛び、今度こそ映像が終わって視界が元に戻った。カラスが体験した悪夢。チユニは、妙な違和感を感じていた。
するとずっと眠っていたカラスが目を覚まし、包帯の巻かれた手で酸素マスクを外す。
目を覚ましただけであって、まだまだしばらくは安静が必要だ。医学にも精通している彼女は、それがよくわかっているはず。それでも、柵にしがみついて必死に起き上がろうとする。
「そんなわけにはいかない。カァ子は、うっ!寝すぎた、急がないと……っ、時間がない。あ、うぐっ!」
「カラス、君の記憶をミレイナが見せてくれたんだ。話してくれないかな?君と、ライトとのことを」
ミレイナは起き上がったカラスの手をまだ握っている。見えるはずもないのにジッと見つめているようで、やっと呼吸が落ち着いてきたと思えば咳き込む。
薬の副作用のようなものか。初めて見るミレイナの特殊能力は他の月子のとは違い、彼女が特別であることを示している。
そんなミレイナを、自分の手を握って苦しげに咳き込む彼女の背中を、カラスは優しく撫でた。
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