ユキ・シオン

那月

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初めての

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「ゆ、いち……」


 どうして俺の声は震える?震える唇の隙間ら絞り出された声はか細くて、追いかけたくても足が動かない。そんなんじゃあ悠一は戻ってこない。


 離れていく悠一。ズキンッと、胸の奥が痛んだ。寂しい。行かないで。「冗談だよ」って振り向いて、笑顔で戻ってきて。


 もう1度だ。もう1度、今度は腹に力を入れて――


「逃げるなよ、ネコヤン。お前さんは子猫ちゃんの隣にいろ。さもなくば………………これから子猫ちゃんは今まで味わったことのない痛みに襲われて泣き叫ぶことになる、かも」


 え?


 悠一の足がピタッと止まった。バッ!と振り返って、猛ダッシュ!ドクトルの腕の中から俺を引き寄せると「帰るよっ!」と叫んだ。


「だめだめだめだめだめだめっ!検診、まだ半分残ってるんだから今帰られたら吾輩がお狐様に怒られる、かも」


「シオンの身の安全の方が優先だ。泣き叫ぶような検診なんか受けさせられない。香さんには俺から話しておく」


「いやいや、だからネコヤンがいればそんなことにはならないから、たぶん。ほら、この部屋だから行くよ。はーやーくー」


 右手を悠一に、左手をドクトルに引っ張られて引っ張りだこ状態の俺。オッサン2人に取り合いされるなんて。うわー、腕が伸びそう。


 今はもうすっかりいつものドクトルだけどさ、さっきの、悠一に声をかけた時。ふざけた感じが一切ない、真面目な低い声だった。


 少し焦りの混じった、けれど叱るような怒気が含まれていて。悠一の背中を見つめる紫色の目はまっすぐ鋭かった。まるで別人。前半までは。


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