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ずっと見ていた
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しおりを挟むグッと首筋に押し付けられたメスは、しかしそれ以上動かない。メスを握る千川原の手に重なった、ゴツい手がゆっくり離れさせる。
「お前さんが死んだら、誰が吾輩の補助をする?誰が吾輩のセックスの相手をする?薬品庫の在庫管理も、吾輩の処方の確認も。被験者達のカウンセリングもやってくれていただろう?お前さん以外にできる人がいるか?」
「ど、ドクトル……離せよ。僕は、ネコヤンさんとシオン君の仲を認めても諦められないんだ。こうするしか、死ぬしか僕は――」
俺が見たのは、突然後ろからバサバサッ!と黒い何かが突っ込んできた。そしてその黒い何かはバサッ!と大きく翻る黒衣に変わり千川原の姿を隠す。
まるでスローモーションのようにゆっくり黒衣が落ち着く間に交わされた言葉、そしてその後姿から乱入したのがドクトルだと知った。
怒りと悲しみ、それから酷い焦りの入り混じったドクトルの声。口癖の「たぶん」や「かも」が混じっていない真剣な言葉、声に、こいつは本当にドクトルか?と疑いたくなる。
千川原の目にはどんな表情のドクトルが映った?俺には見えない。だが今まで見たことがないほどに真剣なドクトルは、千川原の手を下ろさせた。
カラカランッ。床にメスが落ちるとドクトルが何かしたのか、千川原は気を失い倒れた。
「バカが。お前さんは疲れすぎたんだ、ゆっくり休んで頭を冷やせ。……………暗く狭い檻の中で、何もかも押し付けて悪かった、かも」
苦しそうに呟いたドクトルの声が、震えていた。千川原の監視役として、ドクトルにも思うところがあるんだろう。ギュッときつく抱きしめ、溜め息を吐くとやっと振り返る。
苦笑。いつもは千川原に抱かれているドクトルは、気を失っている千川原を抱きかかえて俺とシオンのもとへ。
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