ユキ・シオン

那月

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ずっと見ていた

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 俺は笑った。心からの安堵を顔に浮かべる。顔は笑也に向けたまま力の抜けた手でブラックコーヒーの缶を取ると、口に運んで傾ける。
 

「おい、逆。危ない危ない。急に笑ったかと思えばそんなマヌケな、ハハハッ」

 
 笑うな。ブラックコーヒーの缶を傾けたら向きが逆だったみたいで、中身を顔にかぶる前に笑也が缶をつかんで引き止めてくれた。

 
 缶を下げると手を離して、笑也も笑う。力が抜けたか?いや、こいつは最初から俺に緊張していなかった。声をかけてきた時も、緊張しているフリをしていた。

 
 俺の失敗を隠すことなく素直に笑っているこいつは、もしかしたらかなりの大物なのかもな。


「俺が突き放してしまったシオンを拾ったのが、高台寺笑也でよかった。おかげでシオンは快復したし、俺と再会できた。俺は千川原から解放され、この腕にシオンを再び抱くことができた」

 
「まだ返すって言ってないって。シオンさんの身柄は俺が預かってるんですよ?」

 
「空気を読め。ともかく、一旦は落ち着いたが。千川原はまだ俺を諦めきれてないしシオンもよくわからねぇことになっちまったが、誰も死なずに済んだ。全ては笑也、お前のおかげだ。ありがとう」


「袖振り合うも他生の縁、ですよ。というか俺、ユキ……シオンさんに運命を感じてさ。だあぁかあぁらあぁ、そういうんじゃないですって!はぁ。墓場で見つけた時、一目見た時に“俺が助けてやらねぇと”って思って。抱き上げたら、軽くて冷たくて。死にかけてんのに俺、色々文句言いながらそのまま家に帰ってた。んで、手放せなくなった。というか――」
 

 そりゃあ、「運命」って言われたらまた恋心を疑いたくもなる。俺、そんなに怖い顔になってたか?


 
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