ユキ・シオン

那月

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譲渡会

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「だめだめ、吾輩はこれから大事な用事があるの、たぶん。トイレならそこ!3つ目の扉と4つ目の扉の間の奥がそうだから、わかった?よし、行っておいで」


「うぅー……わかった。頑張って、1人で行く」


 駿君に顔を寄せて視線を合わせ指をさしながらトイレの場所を教えるドクトルが、俺の知ってるドクトルじゃない。全然違う。


 渋々離れてトボトボ歩いて行った駿君を見送り、ドクトルは大きな溜め息を吐いた。何だろうな。子供を躾ける父親に見えたぜ。


「あの子は擬人化したのが最近で、まだ人間の常識を知らない。保護者は大変なのよ、かも。あぁーさてさて、そろそろ本題に――」


「おいドクトル。あの子、階段を上って行ったけど大丈夫か?」


「はぁっ!?階段なんてトイレの奥でしょっ!!もぉぉぉぉーーーーっ!!ごめん子猫ちゃん、ネコヤン、ソランが第2検査室にいるからあとはよろしくっ!」


 俺も見た。駿君が、フツーにトイレの前を通り過ぎて、急に階段を駆け上がっていったの。しかも2段飛ばし。ほんっと、元気だよなぁ?


 悠一が階段を指さして、ギョッとしたドクトルが牛になった。オオコウモリが牛だぜ?


 方向音痴にもほどがあんだろ、悠一よりも酷い。保護者も大変だな。バサッ!と黒衣をはためかせて、ドクトルは叫びながら走って行っちまった。


 あー…………デジャヴ?前もさ、あったじゃん。俺の初めての検診の時に途中でドクトルが離脱して、ソランさんが代わりをしてくれた。


 今回も?香さんお手製の首輪がついているとはいえ、ドクトルの監視が外せないソランさんと?マジかよ。気まずいな。だってソランさん、悠一を好きなままなんだろ?


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