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3.元聖女は冒険者として仕事をします。
第70話
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「アンタは本当にわからない子だね。喧嘩なんか覚える必要ないだろ! そんなの覚えてる暇あるなら、親方のとこ行って、カンナがけでもしてなさい!」
ナターシャさんに大声で怒鳴られて、ノアくんが転がった椅子を蹴った。
「わかんねーのは母さんだろ! 何で勝手にライガに裏から俺の相手すんなとか勝手に言ってるわけ? 俺、もうそんなに全部口出しされるほどガキじゃねぇし!」
「椅子に当たるんじゃないよ! そういうとこがまだガキなんだよ! 親の言うことは聞きな!」
部屋に入ってきた私たちにも気づかないで二人はまた黙って睨みあった。
これは、あれですね。ついこの間、ノアくんがライガに攻撃を当てたから相手になってくれって言ってたやつですね。それでライガがナターシャさんにノアくんの相手をしないでくれって言われてるから、話し合ってきてって言ったから……ノアくんはお母さんと話そうとしてこうなった……のかな。
「何でライガの話……」
「こういうことがありまして……」
私は状況がわからず混乱している様子のステファンに、その時のことを話した。
そうしてたら、奥の扉からテオドールさんが出てきて、2人の間に入った。
「……ナターシャ、ノア、そろそろ小さい子たちの食事の時間ですよ。二人とも深呼吸して、落ち着いてください」
子どもたちは奥にいるようで、この場にはナターシャさん、ノアくん、テオドールさんの親子しかいなかった。
「そうだね、大きい声出して、ごめん、テオ。ノア、椅子と机を戻しな。これじゃチビたちの食事の準備ができないだろ」
「……わかったよ!」
一時休戦なのか、ノアくんは倒れた机と椅子を直して、それから部屋の隅に壁を向いて座り込んだ。
ナターシャさんは、大きく息を吐いてから、テオドールさんに向き直る。
「でもね……落ち着けったってね、テオ。――アンタからもこの子に言ってよ。冒険者に憧れてるのか、なんなのか知らないけど、無駄なことするなって」
「ナターシャ……私はね、ノアが、ライガから戦い方……というか、身体の使い方を教わるくらいは、いいんじゃないかと思っているんです」
そこで二人の会話を聞きつけたのか、ノアくんがお父さんとお母さんの間に飛び込んだ。
ああ、再燃しちゃった……。
「無駄なことってなんだよ! 無駄なことって! そういう言い方すんなよ!」
ノアくんはナターシャさんの言ったことしか聞こえていないみたい。
それから黙ったノアくんは、背中を丸めて、耳をしょぼんと折って、拳を握ってふるふる震えると、だだっと私たちの横を駆け抜けて外に行ってしまった。
「ノアっ! ……ステファンに、レイラ? 何でここに?」
ノアくんを追いかけようと入口に駆けつけたナターシャさんは、そこでようやく私たちに気づいた。
「お魚の……おすそ分けをと思って来たんですが……、あの、今日、ステファンと釣りに行きまして」
「そう! テオドールに渡しといて」
そう言って、ナターシャさんはノアくんを追いかけようとする。
私は思わず声をかけた。
「——ナターシャさん、ノアくん、私たちが見てきましょうか?」
「え?」
何だかこのままナターシャさんが追いかけても――ノアくんと余計にこじれるだけな気がしてしまって。口を出すことじゃないかもしれないけど。
「だけど」と言うナターシャさんを制止して、テオドールさんが困ったように笑った。
「申し訳ないけど、お願いします。たぶん、少し先の空き地にいると思いますので……。『早く帰ってこないと、食事がありませんよ』って言っといてください」
「わかりました。あの、これ今日たくさん釣れたので……、どうぞ」
私はおすそわけの魚が入った革袋を置いて、ステファンと一緒に出て行ったノアくんの後を追った。
***
ノアくんはテオドールさんの言ったとおり、教会から森の方へ行く道の途中にある空き地……私が時々乗馬の練習をしているところにある切り株に座ってうな垂れていた。ふかふかした耳がぺたんと垂れていて、こんなときに不謹慎だけど――後姿が可愛い。
「ノア」
ステファンが呼びかけると、ノアくんはぴくっと耳を動かして私たちを見た。
「レイラにステファン……」
「さっき、お母さんと喧嘩してるとき、玄関にいたから、お母さんの代わりに追いかけて来たよ」
ステファンは腰を落とすとノアくんと目線を合わせた。
――私にやるのと同じだなぁ。
私もノアくんに話しかける。
「夜も遅いですし、帰りましょう。『夕食なくなっちゃいますよ』ってテオドールさん言ってましたよ。……今日美味しい魚をお土産に持ってきたんだから、食べてほしいなぁ」
「魚……」と呟いたノアくんは一瞬顔を上げたけど、ぷいっと横にずらしてしまった。
「帰らない。せっかくちゃんと相談したのに、頭っから話聞いてくれないんだもん。あんな家帰りたくない」
ステファンは続けて優しく問いかけた。
「ノアは、どうしてライガに戦う方法を習いたいんだ?」
「――冒険者になりたいから、それまでに強くなっておきたい。俺の知ってる獣人で、一番冒険者レベル高くて強いの、ライガだし」
ステファンは続けて聞く。
「何で冒険者になりたいの?」
「だって」とノアくんは気まずそうに視線を泳がした。
「だって、――母さんカッコ良いじゃん。街の人たちにも頼られてるし、俺もそういうふうになりたいよ。母さんは、俺は手先が器用だし、このまま親方のとこで修業して大工になれって言うけど」
ステファンは笑うと、ノアくんの肩を叩いた。
「じゃあ、そうお母さんに言ってみなよ。母さんみたいになりたいから、やりたいってさ。所長は聞いてくれると思うよ」
「……そんなん、言いたくない!」
ノアくんはぷいっと横を向いてしまった。ステファンは困ったように笑ってノアくんの明るい茶色の髪をわしゃわしゃ撫でると、「戻ろうか」と言った。でもノアくんは首を振った。
「帰るの、嫌だ」
「でも、ここにいても、お腹空いちゃいません?」
私が言うと、ノアくんはすっと立ち上がった。
「今日は親方の家に泊めてもらう。――どっちにしろ、明日から、親方について王都の方に行く予定だったし」
「王都?」
私は首を傾げた。ノアくんは気分転換したみたいに背筋を伸ばして耳もピンとさせると、私に得意そうに言った。
「そう! 宮殿の大きい修理があるとかで、親方も呼ばれてるんだ! 俺はその手伝い。王都、初めて行くんだ。レイラにお土産買ってきてやる!」
『お土産買ってきてやる!』の言い方がライガそっくりだったので私は思わずふふっと笑った。やっぱり獣人さんたちって、どことなく似てる気がする。
「――そっか。じゃあさ、親方さんの家までついていってもいいか?」
ステファンがそう言うと、ノアくんはこくりと頷いた。
ノアくんが修行に行ってる大工の親方さんの家は、教会を通り過ぎて、しばらく行ったところにあった。ドアの呼び鈴を鳴らすと、前にテムズさんの卵取引の現場についていって見つかって捕まった時に迎えにきてくれた、長い髭の大きいおじさんが出てきた。
「お、なんだ。ステファンと―――いつぞやの、小人ハーフの子じゃねぇか」
「親方さん、いつもお世話になってます」
ステファンが挨拶をした横で、ノアくんはちょこんと頭を下げて、小さい声で言った。
「親方――家帰りたくないんで、泊めて下さい」
「どうしたんだ」
「……母さんと、喧嘩」
「明日王都に出かけるってのに、また母さんと喧嘩したのかぁ」
親方さんは「しょうがないなぁ」と髭を撫でて呟いてから、ステファンを見た。
「ステファン。ナターシャとテオに、面倒見とくから、心配すんなって言っといてくれるか?」
「もちろんです」とステファンは答えた。
ノアくんはてててっと親方さんの家に入っていった。
ナターシャさんに大声で怒鳴られて、ノアくんが転がった椅子を蹴った。
「わかんねーのは母さんだろ! 何で勝手にライガに裏から俺の相手すんなとか勝手に言ってるわけ? 俺、もうそんなに全部口出しされるほどガキじゃねぇし!」
「椅子に当たるんじゃないよ! そういうとこがまだガキなんだよ! 親の言うことは聞きな!」
部屋に入ってきた私たちにも気づかないで二人はまた黙って睨みあった。
これは、あれですね。ついこの間、ノアくんがライガに攻撃を当てたから相手になってくれって言ってたやつですね。それでライガがナターシャさんにノアくんの相手をしないでくれって言われてるから、話し合ってきてって言ったから……ノアくんはお母さんと話そうとしてこうなった……のかな。
「何でライガの話……」
「こういうことがありまして……」
私は状況がわからず混乱している様子のステファンに、その時のことを話した。
そうしてたら、奥の扉からテオドールさんが出てきて、2人の間に入った。
「……ナターシャ、ノア、そろそろ小さい子たちの食事の時間ですよ。二人とも深呼吸して、落ち着いてください」
子どもたちは奥にいるようで、この場にはナターシャさん、ノアくん、テオドールさんの親子しかいなかった。
「そうだね、大きい声出して、ごめん、テオ。ノア、椅子と机を戻しな。これじゃチビたちの食事の準備ができないだろ」
「……わかったよ!」
一時休戦なのか、ノアくんは倒れた机と椅子を直して、それから部屋の隅に壁を向いて座り込んだ。
ナターシャさんは、大きく息を吐いてから、テオドールさんに向き直る。
「でもね……落ち着けったってね、テオ。――アンタからもこの子に言ってよ。冒険者に憧れてるのか、なんなのか知らないけど、無駄なことするなって」
「ナターシャ……私はね、ノアが、ライガから戦い方……というか、身体の使い方を教わるくらいは、いいんじゃないかと思っているんです」
そこで二人の会話を聞きつけたのか、ノアくんがお父さんとお母さんの間に飛び込んだ。
ああ、再燃しちゃった……。
「無駄なことってなんだよ! 無駄なことって! そういう言い方すんなよ!」
ノアくんはナターシャさんの言ったことしか聞こえていないみたい。
それから黙ったノアくんは、背中を丸めて、耳をしょぼんと折って、拳を握ってふるふる震えると、だだっと私たちの横を駆け抜けて外に行ってしまった。
「ノアっ! ……ステファンに、レイラ? 何でここに?」
ノアくんを追いかけようと入口に駆けつけたナターシャさんは、そこでようやく私たちに気づいた。
「お魚の……おすそ分けをと思って来たんですが……、あの、今日、ステファンと釣りに行きまして」
「そう! テオドールに渡しといて」
そう言って、ナターシャさんはノアくんを追いかけようとする。
私は思わず声をかけた。
「——ナターシャさん、ノアくん、私たちが見てきましょうか?」
「え?」
何だかこのままナターシャさんが追いかけても――ノアくんと余計にこじれるだけな気がしてしまって。口を出すことじゃないかもしれないけど。
「だけど」と言うナターシャさんを制止して、テオドールさんが困ったように笑った。
「申し訳ないけど、お願いします。たぶん、少し先の空き地にいると思いますので……。『早く帰ってこないと、食事がありませんよ』って言っといてください」
「わかりました。あの、これ今日たくさん釣れたので……、どうぞ」
私はおすそわけの魚が入った革袋を置いて、ステファンと一緒に出て行ったノアくんの後を追った。
***
ノアくんはテオドールさんの言ったとおり、教会から森の方へ行く道の途中にある空き地……私が時々乗馬の練習をしているところにある切り株に座ってうな垂れていた。ふかふかした耳がぺたんと垂れていて、こんなときに不謹慎だけど――後姿が可愛い。
「ノア」
ステファンが呼びかけると、ノアくんはぴくっと耳を動かして私たちを見た。
「レイラにステファン……」
「さっき、お母さんと喧嘩してるとき、玄関にいたから、お母さんの代わりに追いかけて来たよ」
ステファンは腰を落とすとノアくんと目線を合わせた。
――私にやるのと同じだなぁ。
私もノアくんに話しかける。
「夜も遅いですし、帰りましょう。『夕食なくなっちゃいますよ』ってテオドールさん言ってましたよ。……今日美味しい魚をお土産に持ってきたんだから、食べてほしいなぁ」
「魚……」と呟いたノアくんは一瞬顔を上げたけど、ぷいっと横にずらしてしまった。
「帰らない。せっかくちゃんと相談したのに、頭っから話聞いてくれないんだもん。あんな家帰りたくない」
ステファンは続けて優しく問いかけた。
「ノアは、どうしてライガに戦う方法を習いたいんだ?」
「――冒険者になりたいから、それまでに強くなっておきたい。俺の知ってる獣人で、一番冒険者レベル高くて強いの、ライガだし」
ステファンは続けて聞く。
「何で冒険者になりたいの?」
「だって」とノアくんは気まずそうに視線を泳がした。
「だって、――母さんカッコ良いじゃん。街の人たちにも頼られてるし、俺もそういうふうになりたいよ。母さんは、俺は手先が器用だし、このまま親方のとこで修業して大工になれって言うけど」
ステファンは笑うと、ノアくんの肩を叩いた。
「じゃあ、そうお母さんに言ってみなよ。母さんみたいになりたいから、やりたいってさ。所長は聞いてくれると思うよ」
「……そんなん、言いたくない!」
ノアくんはぷいっと横を向いてしまった。ステファンは困ったように笑ってノアくんの明るい茶色の髪をわしゃわしゃ撫でると、「戻ろうか」と言った。でもノアくんは首を振った。
「帰るの、嫌だ」
「でも、ここにいても、お腹空いちゃいません?」
私が言うと、ノアくんはすっと立ち上がった。
「今日は親方の家に泊めてもらう。――どっちにしろ、明日から、親方について王都の方に行く予定だったし」
「王都?」
私は首を傾げた。ノアくんは気分転換したみたいに背筋を伸ばして耳もピンとさせると、私に得意そうに言った。
「そう! 宮殿の大きい修理があるとかで、親方も呼ばれてるんだ! 俺はその手伝い。王都、初めて行くんだ。レイラにお土産買ってきてやる!」
『お土産買ってきてやる!』の言い方がライガそっくりだったので私は思わずふふっと笑った。やっぱり獣人さんたちって、どことなく似てる気がする。
「――そっか。じゃあさ、親方さんの家までついていってもいいか?」
ステファンがそう言うと、ノアくんはこくりと頷いた。
ノアくんが修行に行ってる大工の親方さんの家は、教会を通り過ぎて、しばらく行ったところにあった。ドアの呼び鈴を鳴らすと、前にテムズさんの卵取引の現場についていって見つかって捕まった時に迎えにきてくれた、長い髭の大きいおじさんが出てきた。
「お、なんだ。ステファンと―――いつぞやの、小人ハーフの子じゃねぇか」
「親方さん、いつもお世話になってます」
ステファンが挨拶をした横で、ノアくんはちょこんと頭を下げて、小さい声で言った。
「親方――家帰りたくないんで、泊めて下さい」
「どうしたんだ」
「……母さんと、喧嘩」
「明日王都に出かけるってのに、また母さんと喧嘩したのかぁ」
親方さんは「しょうがないなぁ」と髭を撫でて呟いてから、ステファンを見た。
「ステファン。ナターシャとテオに、面倒見とくから、心配すんなって言っといてくれるか?」
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