【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん

文字の大きさ
208 / 217
8.元聖女はエルフの森に着きました。

第206話

しおりを挟む
 見渡せど見渡せど大木がどこまでも続く森で、私は途方に暮れてしまいました。

「……どこかの木に、いるんですよね、お父さん……」

 私の呟きにリンドールさんは「ああ」とだけ頷きます。

「場所はわからないんですか」

 ステファンが補足して聞いてくれたけど、リンドールさんは首を振った。

「マイグリンの幽閉は、アイグノール様自身が行われた。私たちは場所はわからない」

 それから、私の肩に手を置いて言った。

「耳を澄ませて木々の精霊に話しかけてみなさい。森の木々は皆つながっている。何か反応があるはずだ」

 私は精霊の立てる音に耳を澄ませた。
 ここにはいつも聞こえる火の精霊サラマンダーのぺたぺたする足音はしなくて、ザザーっていう水の精霊ウンディーネの動く音がたくさん聞こえた。
 木の精霊……木の精霊……ってどの音でしょう……。
 いくつも寄せては去って行く音に耳を澄ませていると、その中で、私の耳は1つの音に辿り着いた。

 ――イラ……、イラ……。

 思わず両耳がぴくりと動いた。

「――どうした?」

 ライガが顔を覗きこんだけど、私はその微かな音に集中するため、その場にしゃがみ込んで目を閉じました。

「名前、私の名前……」

 耳がぴくぴくと動きます。もっと集中しないと。

「名前?」

 ――レイラ。

「私の名前を呼んでます……」

 確かにその微かな音は私の名前を呼んでいた。

 ***

「こっち……じゃない……、あっちです……」

 耳をそばだてて、その私の名前を呼ぶ微かな音をたどっていく。
 その音は耳に馴染んだ声の音で、確かに、記憶の奥で聞いたことがある音だった。

 ――お父さん、ですね。

 音のする方へ足を進めるたび、その感覚は確信に変わって行きます。
 確かに、お父さんがいる。
 ――だけど……、私の名前を呼ぶその声は悲哀に満ちていて、耳を塞ぎたいような気持にもだります……。

 早く見つけてあげないと……。

「リンドール、お前には何か聞こえるか?」

 私と同じように耳を澄ませたエドラさんがリンドールさんに聞きますが、リンドールさんは首を振ります。

「……私たちには聞こえないだろう。木々の精霊の中に流れ込んだマイグリンの微かな意識を感じられるのは――娘であるこの子だけだ」

 どうやら私にしか、この音は聞こえないようです。

「……これって、お父さんの意識なんですか?」

「ああ。大樹の中で残っているマイグリンの意識がそのまま流れてきているのだろう。きっとあいつは――お前ことをずっと中で考えている……」

「ずっと……」

 ずっとって……私とお父さんが離れてもう10年以上は経ってるけど、それからずっと、でしょうか……?エルフの時間の感覚としては……、10年っていってもそんなに長くないのかもしれませんが……、でも……。

「早く見つけてあげないとですね」

 私は改めてそう思って耳を澄ませた。

 そうやって、音をずっと辿って行くと――、

「この木……?」

 私は一本の大きな木の前で、立ち止まった。

「他の木と同じ普通の木に見えるけど……」

 ステファンがその幹に触れました。特に何も変わった様子のない、他の大樹と同じ、普通の大きな木です。——でも、「レイラ」と私を呼ぶ声は確かにここからはっきり聞こえてます。

「――レイラです。……お父さん、ですよね……」

 意を決して、私はその木のざらっとした幹に手を当てました。
 そうすると……、ざわざわっと、葉っぱが騒めきました。風も吹いてないのに。
 そして、幹の表面がボコボコっと音を立てて波打って、割れ目が一つできました。
 その割れ目が動……きました。

「あ……ァ……レ……ィ……ラ……?」

「喋ったっ?」

 ライガがびくっと毛並みを逆立てる。木が、話してますね。

「レイラ……です……」

 私は呆然と、木に返事をする。

「マイグリン、ここにいたのか……。お前の娘が里を訪ねてきた。――どうして、魔族との間に子どもがいたことを言わなかった」

 リンドールさんが木に手を触れて、悲痛そうな声で言った。

「魔族を追っていて何があったのか、本当の話を聞かせて欲しい。――今、そこから出してやる」

「どうやれば、外に出せるんですか?」

 聞くと、リンドールさんは私を見つめた。

「マイグリンに魔力を流しこんでくれ。外から魔力を与えて、分離させたところを削り出す」

「……木の中にいるってどういうことだよ。切り倒すんじゃだめなのか?」

「大樹は切り倒せない。この木は今までに森に戻ったエルフの別の姿だから」

 リンドールさんは「見てみろ」と言うように魔法で風を起こすと、その木の根元に風の刃を当てました。瞬間的に浅い切り込みが入りましたが、その跡は即座に何もなかったかのように消えてしまいました。

「マイグリンはまだ完全に木と一体化していない。魔力を流せば分離できるだろう。――木の中にいるあいつだけを選別して魔力を与えるのは、レイラ、お前にしかできないだろう」

 初めてリンドールさんに名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばしました。

「わかりました!」

 木に手を当てて、中にいるお父さんの気配に集中します。
 そして、目を閉じて、祈りの言葉を呟きました。
 ずっとキアーラの神殿で祈ってきた習慣のせいか、祈りの言葉を唱えているときが、一番魔力が出せるんですよね……。

 ぼこぼこぼこっと音を立てて、木の幹の表面が振動する音が聞こえました。
 目を開けると……、木の表面に人のような形の塊が浮かび上がっていました。

「……これで、大丈夫だろう。あとはこれを一気に切り離す」

「僕が切り離しましょう」

 アイザックさんがそう言って、剣に炎をまとわせて一歩前に出ます。
 剣を振り上げて一閃、人の形の幹の塊が木から切り離されて地面にどさりと落ちました。

「お父さん……!?」

 これ、本当にお父さんなんですかね。だって、木。人型っぽいですけど。
 駆け寄ると、その塊の表面に割れ目ができて、そこから緑色の瞳が覗きました。
 それは紛れもなく、記憶の中で私に話しかけていたお父さんの瞳で……。

「お父さん!」

 私がそう叫ぶと、口のような形のところから、ギシギシしたかすれ声だったけれど、

「レイラ……、大きく、なって……」

 と確かな声がしました。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...