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8.元聖女はエルフの森に着きました。
第206話
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見渡せど見渡せど大木がどこまでも続く森で、私は途方に暮れてしまいました。
「……どこかの木に、いるんですよね、お父さん……」
私の呟きにリンドールさんは「ああ」とだけ頷きます。
「場所はわからないんですか」
ステファンが補足して聞いてくれたけど、リンドールさんは首を振った。
「マイグリンの幽閉は、アイグノール様自身が行われた。私たちは場所はわからない」
それから、私の肩に手を置いて言った。
「耳を澄ませて木々の精霊に話しかけてみなさい。森の木々は皆つながっている。何か反応があるはずだ」
私は精霊の立てる音に耳を澄ませた。
ここにはいつも聞こえる火の精霊のぺたぺたする足音はしなくて、ザザーっていう水の精霊の動く音がたくさん聞こえた。
木の精霊……木の精霊……ってどの音でしょう……。
いくつも寄せては去って行く音に耳を澄ませていると、その中で、私の耳は1つの音に辿り着いた。
――イラ……、イラ……。
思わず両耳がぴくりと動いた。
「――どうした?」
ライガが顔を覗きこんだけど、私はその微かな音に集中するため、その場にしゃがみ込んで目を閉じました。
「名前、私の名前……」
耳がぴくぴくと動きます。もっと集中しないと。
「名前?」
――レイラ。
「私の名前を呼んでます……」
確かにその微かな音は私の名前を呼んでいた。
***
「こっち……じゃない……、あっちです……」
耳をそばだてて、その私の名前を呼ぶ微かな音をたどっていく。
その音は耳に馴染んだ声の音で、確かに、記憶の奥で聞いたことがある音だった。
――お父さん、ですね。
音のする方へ足を進めるたび、その感覚は確信に変わって行きます。
確かに、お父さんがいる。
――だけど……、私の名前を呼ぶその声は悲哀に満ちていて、耳を塞ぎたいような気持にもだります……。
早く見つけてあげないと……。
「リンドール、お前には何か聞こえるか?」
私と同じように耳を澄ませたエドラさんがリンドールさんに聞きますが、リンドールさんは首を振ります。
「……私たちには聞こえないだろう。木々の精霊の中に流れ込んだマイグリンの微かな意識を感じられるのは――娘であるこの子だけだ」
どうやら私にしか、この音は聞こえないようです。
「……これって、お父さんの意識なんですか?」
「ああ。大樹の中で残っているマイグリンの意識がそのまま流れてきているのだろう。きっとあいつは――お前ことをずっと中で考えている……」
「ずっと……」
ずっとって……私とお父さんが離れてもう10年以上は経ってるけど、それからずっと、でしょうか……?エルフの時間の感覚としては……、10年っていってもそんなに長くないのかもしれませんが……、でも……。
「早く見つけてあげないとですね」
私は改めてそう思って耳を澄ませた。
そうやって、音をずっと辿って行くと――、
「この木……?」
私は一本の大きな木の前で、立ち止まった。
「他の木と同じ普通の木に見えるけど……」
ステファンがその幹に触れました。特に何も変わった様子のない、他の大樹と同じ、普通の大きな木です。——でも、「レイラ」と私を呼ぶ声は確かにここからはっきり聞こえてます。
「――レイラです。……お父さん、ですよね……」
意を決して、私はその木のざらっとした幹に手を当てました。
そうすると……、ざわざわっと、葉っぱが騒めきました。風も吹いてないのに。
そして、幹の表面がボコボコっと音を立てて波打って、割れ目が一つできました。
その割れ目が動……きました。
「あ……ァ……レ……ィ……ラ……?」
「喋ったっ?」
ライガがびくっと毛並みを逆立てる。木が、話してますね。
「レイラ……です……」
私は呆然と、木に返事をする。
「マイグリン、ここにいたのか……。お前の娘が里を訪ねてきた。――どうして、魔族との間に子どもがいたことを言わなかった」
リンドールさんが木に手を触れて、悲痛そうな声で言った。
「魔族を追っていて何があったのか、本当の話を聞かせて欲しい。――今、そこから出してやる」
「どうやれば、外に出せるんですか?」
聞くと、リンドールさんは私を見つめた。
「マイグリンに魔力を流しこんでくれ。外から魔力を与えて、分離させたところを削り出す」
「……木の中にいるってどういうことだよ。切り倒すんじゃだめなのか?」
「大樹は切り倒せない。この木は今までに森に戻ったエルフの別の姿だから」
リンドールさんは「見てみろ」と言うように魔法で風を起こすと、その木の根元に風の刃を当てました。瞬間的に浅い切り込みが入りましたが、その跡は即座に何もなかったかのように消えてしまいました。
「マイグリンはまだ完全に木と一体化していない。魔力を流せば分離できるだろう。――木の中にいるあいつだけを選別して魔力を与えるのは、レイラ、お前にしかできないだろう」
初めてリンドールさんに名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばしました。
「わかりました!」
木に手を当てて、中にいるお父さんの気配に集中します。
そして、目を閉じて、祈りの言葉を呟きました。
ずっとキアーラの神殿で祈ってきた習慣のせいか、祈りの言葉を唱えているときが、一番魔力が出せるんですよね……。
ぼこぼこぼこっと音を立てて、木の幹の表面が振動する音が聞こえました。
目を開けると……、木の表面に人のような形の塊が浮かび上がっていました。
「……これで、大丈夫だろう。あとはこれを一気に切り離す」
「僕が切り離しましょう」
アイザックさんがそう言って、剣に炎をまとわせて一歩前に出ます。
剣を振り上げて一閃、人の形の幹の塊が木から切り離されて地面にどさりと落ちました。
「お父さん……!?」
これ、本当にお父さんなんですかね。だって、木。人型っぽいですけど。
駆け寄ると、その塊の表面に割れ目ができて、そこから緑色の瞳が覗きました。
それは紛れもなく、記憶の中で私に話しかけていたお父さんの瞳で……。
「お父さん!」
私がそう叫ぶと、口のような形のところから、ギシギシしたかすれ声だったけれど、
「レイラ……、大きく、なって……」
と確かな声がしました。
「……どこかの木に、いるんですよね、お父さん……」
私の呟きにリンドールさんは「ああ」とだけ頷きます。
「場所はわからないんですか」
ステファンが補足して聞いてくれたけど、リンドールさんは首を振った。
「マイグリンの幽閉は、アイグノール様自身が行われた。私たちは場所はわからない」
それから、私の肩に手を置いて言った。
「耳を澄ませて木々の精霊に話しかけてみなさい。森の木々は皆つながっている。何か反応があるはずだ」
私は精霊の立てる音に耳を澄ませた。
ここにはいつも聞こえる火の精霊のぺたぺたする足音はしなくて、ザザーっていう水の精霊の動く音がたくさん聞こえた。
木の精霊……木の精霊……ってどの音でしょう……。
いくつも寄せては去って行く音に耳を澄ませていると、その中で、私の耳は1つの音に辿り着いた。
――イラ……、イラ……。
思わず両耳がぴくりと動いた。
「――どうした?」
ライガが顔を覗きこんだけど、私はその微かな音に集中するため、その場にしゃがみ込んで目を閉じました。
「名前、私の名前……」
耳がぴくぴくと動きます。もっと集中しないと。
「名前?」
――レイラ。
「私の名前を呼んでます……」
確かにその微かな音は私の名前を呼んでいた。
***
「こっち……じゃない……、あっちです……」
耳をそばだてて、その私の名前を呼ぶ微かな音をたどっていく。
その音は耳に馴染んだ声の音で、確かに、記憶の奥で聞いたことがある音だった。
――お父さん、ですね。
音のする方へ足を進めるたび、その感覚は確信に変わって行きます。
確かに、お父さんがいる。
――だけど……、私の名前を呼ぶその声は悲哀に満ちていて、耳を塞ぎたいような気持にもだります……。
早く見つけてあげないと……。
「リンドール、お前には何か聞こえるか?」
私と同じように耳を澄ませたエドラさんがリンドールさんに聞きますが、リンドールさんは首を振ります。
「……私たちには聞こえないだろう。木々の精霊の中に流れ込んだマイグリンの微かな意識を感じられるのは――娘であるこの子だけだ」
どうやら私にしか、この音は聞こえないようです。
「……これって、お父さんの意識なんですか?」
「ああ。大樹の中で残っているマイグリンの意識がそのまま流れてきているのだろう。きっとあいつは――お前ことをずっと中で考えている……」
「ずっと……」
ずっとって……私とお父さんが離れてもう10年以上は経ってるけど、それからずっと、でしょうか……?エルフの時間の感覚としては……、10年っていってもそんなに長くないのかもしれませんが……、でも……。
「早く見つけてあげないとですね」
私は改めてそう思って耳を澄ませた。
そうやって、音をずっと辿って行くと――、
「この木……?」
私は一本の大きな木の前で、立ち止まった。
「他の木と同じ普通の木に見えるけど……」
ステファンがその幹に触れました。特に何も変わった様子のない、他の大樹と同じ、普通の大きな木です。——でも、「レイラ」と私を呼ぶ声は確かにここからはっきり聞こえてます。
「――レイラです。……お父さん、ですよね……」
意を決して、私はその木のざらっとした幹に手を当てました。
そうすると……、ざわざわっと、葉っぱが騒めきました。風も吹いてないのに。
そして、幹の表面がボコボコっと音を立てて波打って、割れ目が一つできました。
その割れ目が動……きました。
「あ……ァ……レ……ィ……ラ……?」
「喋ったっ?」
ライガがびくっと毛並みを逆立てる。木が、話してますね。
「レイラ……です……」
私は呆然と、木に返事をする。
「マイグリン、ここにいたのか……。お前の娘が里を訪ねてきた。――どうして、魔族との間に子どもがいたことを言わなかった」
リンドールさんが木に手を触れて、悲痛そうな声で言った。
「魔族を追っていて何があったのか、本当の話を聞かせて欲しい。――今、そこから出してやる」
「どうやれば、外に出せるんですか?」
聞くと、リンドールさんは私を見つめた。
「マイグリンに魔力を流しこんでくれ。外から魔力を与えて、分離させたところを削り出す」
「……木の中にいるってどういうことだよ。切り倒すんじゃだめなのか?」
「大樹は切り倒せない。この木は今までに森に戻ったエルフの別の姿だから」
リンドールさんは「見てみろ」と言うように魔法で風を起こすと、その木の根元に風の刃を当てました。瞬間的に浅い切り込みが入りましたが、その跡は即座に何もなかったかのように消えてしまいました。
「マイグリンはまだ完全に木と一体化していない。魔力を流せば分離できるだろう。――木の中にいるあいつだけを選別して魔力を与えるのは、レイラ、お前にしかできないだろう」
初めてリンドールさんに名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばしました。
「わかりました!」
木に手を当てて、中にいるお父さんの気配に集中します。
そして、目を閉じて、祈りの言葉を呟きました。
ずっとキアーラの神殿で祈ってきた習慣のせいか、祈りの言葉を唱えているときが、一番魔力が出せるんですよね……。
ぼこぼこぼこっと音を立てて、木の幹の表面が振動する音が聞こえました。
目を開けると……、木の表面に人のような形の塊が浮かび上がっていました。
「……これで、大丈夫だろう。あとはこれを一気に切り離す」
「僕が切り離しましょう」
アイザックさんがそう言って、剣に炎をまとわせて一歩前に出ます。
剣を振り上げて一閃、人の形の幹の塊が木から切り離されて地面にどさりと落ちました。
「お父さん……!?」
これ、本当にお父さんなんですかね。だって、木。人型っぽいですけど。
駆け寄ると、その塊の表面に割れ目ができて、そこから緑色の瞳が覗きました。
それは紛れもなく、記憶の中で私に話しかけていたお父さんの瞳で……。
「お父さん!」
私がそう叫ぶと、口のような形のところから、ギシギシしたかすれ声だったけれど、
「レイラ……、大きく、なって……」
と確かな声がしました。
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