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【1】聖女 目覚める

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 ふわふわとした白い空間に居た。

 暖かい。お日様の匂いがする。
 気持ち良い。

 ふとどこからか、微かな声が聞こえてきた。
 辺りを見回すと、足元に小さな影。
 小さな男の子――の形をした、ぬいぐるみだった。
 白いフェルトで出来ていて、大きさはこぶし二つ分ほど。
 生き人形リビング・ドールだろうか。

 ぬいぐるみはこちらに向けた背中を丸めて、めそめそと泣いていた。
 
 かわいい……。

 自分より遙かに小さい生き物って、無条件で可愛いよなぁ。
 わたしは膝をついてしゃがむと、ぬいぐるみの頭にそっと手を置いた。

 びくりと身を震わせて、ぬいぐるみが振り返る。
 わたしはそのまま、フェルトで出来た黒い髪の毛を撫で続けた。
 ルビーの色の瞳からぽろぽろ涙が零れているので、反対の手で拭ってあげる。

 ぬいぐるみはくすぐったそうに身をよじると、ちょっと笑った。
 
 良かった。泣き止んだみたい。

 手を離そうとすると、その小さな両手で人差し指をきゅっと掴まれた。
 ぽっと頬を染めるぬいぐるみ。急にもじもじし始める。
 片手でわたしの指を掴んだまま、もう片方の手を自分の背中に回す。
 かと思ったら、後ろから赤い小さな花を一輪差し出してきた。
 
 くれるの?

 ありがとう、と受け取ると、ぱぁっと顔を輝かせる。
 続けてもう一輪取り出し、またこちらに差し出してくる。

 あ、ありがとう。

 もう一輪。また一輪。さらに一輪。

 う、うん。うん。もういいよ。ありがとう。もう持ちきれないよ。

 次々に赤い花をプレゼントしてくれるぬいぐるみ。
 全てを受け取るうちに、わたしの両手は抱えきれないほどの花でいっぱいになっていた。

 むせかえりそうなほど甘い香りがする。
 それでもぬいぐるみは、花を贈ることをやめない。

 いつの間にか、頭上からも小さな花が降り注いでいた。
 このままじゃ、花に埋もれてしまう。

 ……息が出来ない……。

 ……助けて……。

 伸ばした指先を、誰かが掴んだ。
 花の影で、姿が見えない。
 だけれどわたしは知っている。
 これが誰なのか知っている。
 彼が誰なのか、知って――……、
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