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プロローグ 聖女 あらぶる

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 白く染まる視界の中、今までの思い出が脳裏を駆け巡る。


 つくづくクソみたいな人生だった。

 物心ついた時から両親は居らず、育てられた宗教施設教会では虐待が日常的に行われていた。
 子供はみんな些細なことで鞭で打たれ、二三日食事抜きはあたりまえ。五歳の時に脱走して連れ戻されて、真冬に全裸にされて井戸水掛けられて一晩裏庭に置き去りにされた時は、本気で死ぬと思った。

 なまじっか魔力があったせいで、強制的に魔術訓練をさせられた。教会はそうして生み出した多数の『聖女』を各地にレンタルすることで多くの利益を生み出していた。
 わたしもそうしてこの勇者パーティに派遣されてきたのだった。

 何より腹が立つのは、これで魔王を封印できたらあの教会の名声がまた高まってしまうだろうということ。

 薬草学を必死で覚えたのは食べられる草を見分けるためだ。攻撃魔法をこっそり学んだのは教会をいつか焼いてやろうと思ったから。回復魔法の授業で手を抜かなかったのは、いつか親友が傷ついた時助けられるように。

 でもそれも全部無駄だった。
 結局、教会が良い所だけ全部持って行くのだ。

 もし生まれ変われるのだとしたら、今度は自分のためだけに生きていく。

 もし次の人生があるのだとしたら、教会のように『全ての人に幸福を』なんて薄ら寒いことは言わない。わたしはわたしの大切な人と自分自身を幸せにするためだけに生きるんだ。


 聖女なんて、もう二度とまっぴらごめんだ。


 こうしてわたしは魔王と共に封じられ、十六年という短い人生の幕を下ろした――――はずだった。
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