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【2】聖女 うばわれる

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 わたしは思わず彼の方に手を伸ばして――――、

 すぱぁんっ!

 無言でその頬を思いっきり平手打ちした。

「ごほうびっ」

 おかしな声を上げて、上半身をよろけさせるゴーシェ。
 叩かれた頬を押さえて涙目でこちらを見詰める。

「なにするんですかぁ!」

 抗議の声を上げる彼を、わたしは無表情のまま見詰めた。

「それはこっちのセリフだよ……!」

 言いつつ、両手に魔力を集中させる。

「貴様を消し炭にして今の『アレ』をノーカンにする……!」

 ――――火の精霊よ 我が呼びかけに答えよ
     この身 この四肢 弓と成し
     汝の光り 矢として 放たん

 こちらの小声の詠唱が聞こえたのか、はたまた唇を読んだのか、ゴーシェが、

「ぁ。」

 顔を引きつらせた。

 わたしの職業クラスは聖女である。
 が、これはわたしの育った宗教施設――『白き翼の会』のブランド名みたいな物だ。
 真面目な『聖女』はブランド名を汚さないよう『回復・補助』のみを生業とする者も多い。

 だがブランドなんかクソ喰らえ精神に富んでいた幼少期のわたしは、攻撃魔法も一通り勉強して扱える様になった。
 というかむしろ、そっちの方がしょうに合っていた。
 何事も好きでやったら上達も早い。

 ゴーシェが慌ててこちらから距離を取る。走りつつ、マントの内側から先ほどの黒い手鏡を取りだした。
 左手でそれを一振りすると、わずかに輝いて漆黒の長杖ロング・ロッドに変わった。てっぺんに、鏡の時にもついていた赤い宝珠オーブがはまっている。

 一方わたしは、座ったまま両の手で弓をつがえる動作をし、

火炎の矢ファイア・アロー!」

 命の言ノ葉セフィル・ワーズを口に出した。
 文字通り、炎の矢を一本放つ術である。術者の力量によっては連射も可能で、わたしの場合は十本ほどなら続けて打てる。

 もっとも軌道が直線なので、正面からの攻撃なら避けるのも意外に簡単――……、

 ――その瞬間。

 ぐんっ。

 おかしな手応えがあった。妙に重いというか、強いというか――……。

 え?

 疑問符が頭に浮かぶより早く、体の周りが赤く光る。

 目だけを動かしてそちらを見やれば、周囲に十本ほどの炎の矢。

 ええぇぇ!? な、なんでっ!?

 だが、一度口にした命の言ノ葉セフィル・ワーズは取り消せない。

 ヒュボッ!!

 現れた矢は一斉に、ゴーシェに向かって突き進んだ。

「おわああぁぁ!
 り、聖光壁リュミ・ミュール!」

 コンッ! と、ゴーシェが長杖ロング・ロッドで床を突く。
 白く輝く光りの壁が彼の前方に現れ、炎の矢の進路を阻む。
 壁にぶつかった矢は、石造りの天井へと弾かれ、

 ドゴグンッ!

 黒煙を上げドームを揺らして霧散した。
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