9 / 54
【2】聖女 うばわれる
2
しおりを挟む
う……わぁ……。
埃と石のかけらがぱらぱらと落ちてくる。シャンデリアがギィギィと軋んだ。
炎の矢の本数が増えていたのはもちろん、一本一本の威力も桁違いに上がっていた。
呆然と天井からゴーシェに視線を落せば、
「あ。」
ぽむっ!
白い煙を上げて、彼は再びぬいぐるみの姿に戻った。
「あー、さすがにあの程度の魔力供給じゃあ、一度魔法を使うと人形になっちゃうみたいですねぇ」
手にしていた長杖も鏡に戻ったようで、いそいそと背中に仕舞っている。
「ルチルさぁん……」
ぬいぐるみがぽにゅぽにゅ近づいて来た。
「百年間一緒に封印されている間に、ルチルさんは僕の魔力をあらかた吸い取ったんですよぉ。
死ぬ寸前の魔女に触ると魔力が受け継がれるって言うでしょ? それと一緒です。
魔王の魔力ですからね、そりゃああんな事にもなりますよ~」
どこかのんびりとそう告げる。
まってまって、頭がついていかない……!
混乱するわたしのすねに片手を置いて、ぬいぐるみはぽっと頬を染めた。
「僕、ルチルさんに吸い尽くされちゃいました……」
いっっらあぁぁ……!!
がしっと片手でやつの顔面を掴む。そのまま無言で目線の高さまで持ち上げた。
「ああああ! ごめんなさいっ! すみませんっ! ほんの冗談のつもりだったんですぅ!」
「笑えない冗談は冗談って言わねーんだよ……!」
手に力を込めてぎりぎりと締め上げれば、ぬいぐるみはじたばたしつつ謝る。
かと思ったら、ふいに大人しくなって指の隙間から紅い眼でじっとこちらを見詰めた。
「……このまま僕を殺しましょうか?」
ひどく静かな冷たい声に、わたしはぎょっとして思わず手を離した。
「な、なんでそんなこと言うの……」
わたしの膝の上に着地して、ぬいぐるみはこちらの指を自分の胸に押し当てる。
「魔王の魂はまだここに。僕の中で眠っています」
埃と石のかけらがぱらぱらと落ちてくる。シャンデリアがギィギィと軋んだ。
炎の矢の本数が増えていたのはもちろん、一本一本の威力も桁違いに上がっていた。
呆然と天井からゴーシェに視線を落せば、
「あ。」
ぽむっ!
白い煙を上げて、彼は再びぬいぐるみの姿に戻った。
「あー、さすがにあの程度の魔力供給じゃあ、一度魔法を使うと人形になっちゃうみたいですねぇ」
手にしていた長杖も鏡に戻ったようで、いそいそと背中に仕舞っている。
「ルチルさぁん……」
ぬいぐるみがぽにゅぽにゅ近づいて来た。
「百年間一緒に封印されている間に、ルチルさんは僕の魔力をあらかた吸い取ったんですよぉ。
死ぬ寸前の魔女に触ると魔力が受け継がれるって言うでしょ? それと一緒です。
魔王の魔力ですからね、そりゃああんな事にもなりますよ~」
どこかのんびりとそう告げる。
まってまって、頭がついていかない……!
混乱するわたしのすねに片手を置いて、ぬいぐるみはぽっと頬を染めた。
「僕、ルチルさんに吸い尽くされちゃいました……」
いっっらあぁぁ……!!
がしっと片手でやつの顔面を掴む。そのまま無言で目線の高さまで持ち上げた。
「ああああ! ごめんなさいっ! すみませんっ! ほんの冗談のつもりだったんですぅ!」
「笑えない冗談は冗談って言わねーんだよ……!」
手に力を込めてぎりぎりと締め上げれば、ぬいぐるみはじたばたしつつ謝る。
かと思ったら、ふいに大人しくなって指の隙間から紅い眼でじっとこちらを見詰めた。
「……このまま僕を殺しましょうか?」
ひどく静かな冷たい声に、わたしはぎょっとして思わず手を離した。
「な、なんでそんなこと言うの……」
わたしの膝の上に着地して、ぬいぐるみはこちらの指を自分の胸に押し当てる。
「魔王の魂はまだここに。僕の中で眠っています」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる