11 / 54
【2】聖女 うばわれる

4

しおりを挟む
「ってか、前回のゴーシェが闇落ち早すぎただけだよね。
 いきなり『僕は孤独だー』とか言い出したかと思ったら魔王化するんだもん。びっくりしたよ。
 遅れてきた思春期だよね」
「ああっ! やめてくださいっ! やめてくださいっ!」

 わたしのセリフにぬいぐるみが両手で耳を塞ぐ。……その姿だと、耳、無いけどな……。

「僕は言葉責めも大歓迎ですけれど、そういう精神を根本からえぐって生きる気力を奪っていく攻撃はお断りですっ!」
「ごめんごめん。また闇落ちしても困るから気をつけるね」
「ちょっとぉ!」

 にやにやしながらからかえば、ぬいぐるみはじゃっかん涙目で抗議した。

 それから頭に置かれた指をぎゅっと握って、ぽぽっと頬を染める。

「そ、そのぉ……またちゅっとしてもらえれば、僕もっとお役に立てるようになると思うんですけれど」

 え。

「いやですけど。」
「な、なんでですか!? なんでですか!」
「だって、呪いが解ける訳じゃなくて、一時的に戻るだけみたいじゃない。ぬいぐるみとして面倒みてあげるから、根本的に呪いを解いてくれる『真実の愛のキス』をしてくれる人をみつけなさい」

 その言葉に、ぬいぐるみは雷に打たれたようにその身を震わせた。

「ひ、ひどいですっ! 僕はこんなにルチルさんをお慕いしているのに、言うに事書いて『他の人に愛されろ』って!」
「い、いやだってさ……」
「僕、努力します! あなたに愛されるようにがんばりますから!」

 わたしの手首にひしっと抱きついて、フェルトの目をうるうるさせるぬいぐるみ。

 ぐ……っ!
 こういう時に人形ってずるい……!

「というか……封印される前にゴーシェとそういう雰囲気だった事って無かったと思うんだけど……」
「そ、それはそのぉ……。
 僕が魔王の魂を目覚めさせた時に、ルチルさん速攻で顔面に跳び蹴り入れてきたじゃないですか」
「え、あ、うん……。そ、そんな事もあったかもしんない」
「あの靴の裏に、僕は初めて人の愛を感じたんです!」
「おかしいよ! お前はよ!」

 握られていた手を引っこ抜いて、思わずわたしは叫んだ。
 しかしぬいぐるみは怯まない。

「さらにそのあとの頬をとらえた拳で、僕は完全に恋に落ちてしまったんです!」
「ヘンタイの快楽ぅ! それはぁ!」

 苦虫を噛み潰した顔になってしまう。

 どん引きです……魔王サマ……。

「もちろん愛していただければ僥倖ですが、嫌われても罵られても僕は幸せですので」

 ゾッとする告白を笑顔でするんじゃないよ……。

 と、その時である。

「――お前らぁ! 神聖な御堂でイチャついてんじゃねーぞ!」

 背後の扉がばーんっと開いたかと思うと、二十歳ほどの青年が顔を覗かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...