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【4】聖女 『天使』を倒す

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「『聖堂で男女の言い争う声と爆発音が聞こえる』って通報があって。行ったら棺が消えててルチルっちだけがいたんです。記憶喪失みたいで、所持品もないし。……あ。その花は持ってるね」

 ジェイドが目線でドライフラワーを指した。

 ……記憶のない女が、ぬいぐるみとしゃべって枯れた花束持ってるって、ちょっとしたホラーだよな……。

 わたしはあいまいに笑っておいた。

「一応受け付けにアンバー医師先生を呼んでもらってます。……見えないところに怪我があるかも知れないし」

 ちょっと含みのある言い方に、わたしは自分が何を心配されているのか、何となく覚った。

 ぐ……っ。記憶喪失のウソが何だか大事に……! ジェイドが良い人だから罪悪感が凄い……!

「今後のこともあると思うんで、一応会長には報告を。
 あと、自警団の仮眠室も空いてると思うんですけど、周り男ばっかでルチルっち怖いだろうから、会議室使わせてもらいますね」
「それはかまわないわ」
「事務の女の子にルチルっちの事引き継いだら、オレは聞き込みに回ります。
 宿屋に泊まってたんなら、覚えてる人がいるかもしれないし」
「あ、事務の子は呼ばなくて良いわ。私が一緒にいるから」
「……ヘンなことしないで下さいよ」
「しつれーね! あんたと違って理性はありますぅ!」
「ぐ……っ!」

 やり返されて鼻白むジェイド。それでも笑顔を作ってこちらに向く。

「ルチルっち、またあとでね」

 ひらひら手を振って部屋を出て行く彼に、わたしも手を振り返した。

「さて、と。ルチルちゃん、甘いお茶は好き?」

 立ち上がるモルガナさんにわたしはこっくりと頷いた。
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