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【7】聖女 家を借りる

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 注文を終えて、通りを行き交う人を見るともなく眺める。

 あの田舎町が百年でずいぶん賑やかになるもんだ。

 ふいにゴーシェがモルガナさんの方を見て言った。

「――百年前の、あの魔王の瘴気は……その、さぞやこの町の人に……辛い思いをさせたのでしょうね……」

 無意識に体がこわばる。

 勇気ある問いかけだ。
 あるいは、聞かずにはいられなかったのかもしれない。
 たとえその答えが、今後自分を苛み続ける事になったとしても。

 わたしには無理だ。
 今はまだあの『教会』がどうなったのかなんて知る勇気はない。

「うーん、そうねぇ」

 思いも寄らない質問だったのか、モルガナさんは目ぱちくりした後答えた。

「私は祖父からの又聞きでしか知らないけれど、本当に辛かったのは二年目だって言ってたわね。
 一年目はね、そりゃあ畑や家畜に被害は出たけれど周りの町から金銭的な援助もあったし、精神的にも沢山支えてもらったって。
 でも時間が経つと、あっという間に忘れちゃうものなのよね。当事者以外は。
 当然だけど、新しく植えた樹や子牛が一年で元通りなんて事はないわけで。二年目の冬が来る前には大勢の人がこの町を捨てて出て行ったそうよ」
「そう……ですか……」
「――――でも、ま!」

 にこっと、会長は赤い唇を綺麗に笑みの形に作った。

「その魔王がいたからこそ、今この町にはダンジョンがあるのよ!
 ダンジョン目当ての冒険者、その冒険者の戦利品目当ての商人達、彼らのおかげでこんなに発展したわけだし。
 人生、何が吉と出るかは分からないものよねぇ」

 わたしはゴーシェを見た。
 ぬいぐるみはそのフェルトの目を閉じて、しばし何かを考えているようだった。
 やがて彼は言った。

「……ありがとうございます」

 モルガナさんからしてみれば、ただ史実を教えてくれた事への礼に過ぎなかったろう。
 だがそれだけの意味ではない事は、わたしにはよく分かった。

「どういたしまして」

 チョコレート色の瞳をイタズラっぽくきらめかせて、お姉さんが笑う。

 一瞬、この人は何もかも分かってて、分からないフリをしているんじゃないかというような考えが頭をかすめる。
 ……いや、そんなわけは無いのだが。

 注文したランチがやって来た。
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