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【7】聖女 家を借りる

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 くだんの家は、町の外れにある『連理の森』と『惑いの森』の、まさに境界線上にあった。

 二つの森の間には『羽衣川はごろもがわ』と呼ばれる、幅三メートルほどの緩やかな流れの小川があり。その上にはアーチ状の小さな木の橋が架かっていた。

「あの『境橋さかいばし』を越えると『惑いの森』よ。気をつけてね」

 アーチ橋を指さしてモルガナさんが言う。

 橋のたもとには、木製の立て看板があった。おそらく【『惑いの森』へ立ち入るべからず】と注意書きがされていたのであろう。しかし長年風雨に晒された結果、最早その役目を果たしてはいなかった。

 小川の手前、左手に、森と一体化しつつあるぼろぼろの家があった。

 壁には蔦が生い茂り、屋根には苔が生えている。さらに奇跡的な偶然で雨樋や窓枠に根を下ろした雑草が、小さな黄色い花と共にぴょこぴょこ顔を出していた。

 家の周りには、前世は柵だったと思われる木片が数枚残っている。
 どこからが森でどこからが庭なのか区別が付かない。

 そうモルガナさんに告げると、彼女は肩をすくめた。

「連理の森、全部よ」
「ぜんぶ!?」
「畑や牧場にしようにも、はぐれた魔物や『天使』が惑いの森からちょくちょく出てくるから、危なくって手つかずのまま放置されてるのよ。
 もしここに住んで手を入れてくれるなら、森林レンジャーみたいな管理人として、町からお給料が出るわよ。まあ、微々たる物だけど」

 それが言ってた「住んでもらうならこっちがお金を払う」って話しかぁ。
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