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【8】聖女 家をリフォームする

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 そうして手鏡を取りだすと、左手で一振りする。
 黒い長杖ロング・ロッドに変わったそれを、トスッと地面に突き刺した。
 てっぺんの赤い宝珠オーブが淡く光る。

「……っ……!」

 ゴーシェが口の中で、もにょもにょと呪文を唱える。
 パリパリと小さな音を立てて大地にグリーンの稲妻が走る。
 稲妻はやがて、ゴーシェを中心とした光りの魔方陣と成った。

 彼のマントがポニーテールの黒髪が、魔力風を受けてひらひらと揺れる。

 同時に家の方にも変化があった。

 メキメキと音を立てて家が縦に伸びていく。まるで木が急激に成長していくように。
 割れた窓ガラスは、池に氷が張るように綺麗に修復されていく。
 平屋だった家は二階建てに。更に屋根裏には大きな天窓が出来た。
 屋根を突き破って煙突が伸び、玄関先に柱付きのポーチが広がっていく。

 足の裏に地震のような震動が伝わってくる。
 どうやら家の地下室もただいま建築中らしい。

 すごい……。これ一体いくつの術を組み合わせているんだろう。
 それを頭の中だけで組み上げて、同時に発動させているなんて。

 やがて揺れが収まり、家は完成した。
 赤い屋根。クリーム色の壁。大きな出窓の付いたステキな家だ。
 所々に緑の蔦や雑草の黄色い花が残っていて、それもまた可愛らしい。

「……ふうぅ~」

 ゴーシェが大きく息を吐く。
 と、ぽんっ! と白い煙が上がって彼はぬいぐるみの姿に戻った。

「あ~……。ギリギリでしたねぇ。庭がまだなんですけれど……」
「じゅうぶん! じゅうぶんだよ!」

 手鏡を仕舞う彼を抱き上げて、頭を撫でる。

「ありがとう! すっごく凄いよ! ほんとにありがとう!」

 ゴーシェは目を見開いた後、ぽぽっと頬を染めた。ふにゃっと顔を緩めて笑う。

「えへへ……どういたしまして」
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