上 下
50 / 54
【9】聖女 魔女になる

3

しおりを挟む
 家をリフォームしてもらった後、わたしはかたくなに魔力供給を拒否した。

 ……わたしの心臓がもう保たないと思ったから。

 で、敷地に結界を張るのにチマチマ自分で魔術式を組んで、一日がかりで完成させたのだ。

 でも、不可抗力とは言えゴーシェの魔力を奪ってしまったのは事実だし、

「ゴーシェにもなるだけ楽しく毎日を送って欲しいんだよ」

 趣味だった魔道具マジック・アイテムの研究・開発が思うように出来ないというのは、なかなかにストレスだろう。

 百年間のブランクを埋めて、早く現代の技術に追いつきたいだろうし……。

「え、じゃ、じゃぁ――……、」

 ぬいぐるみがゴクリと唾を飲み込んでこちらににじり寄ってくる。

「お願いします……!」
「待って待って!」

 それを片手で遮った。

「わ、わたしがするから、ゴーシェは何もしないで!」

 そのセリフに、

「ええぇぇ!? そんなの……ほんとに!? いいんですか!? ありがとうございます! お願いします!」

 ぬいぐるみは歓喜の声を上げると、テーブルの上に大の字になった。

 あっれ~……? これなんか間違ったかな~……。

 そうは思っても、もう後には引けない。

 わたしは両手でぬいぐるみを抱き上げると、顔を近づけ――……、

「……目ぇ閉じて!!」
「あ。はい」

 う゛う゛う゛……これは人形これは人形……。
 恥ずかしくないっ……! 心臓、ドキドキするなっ……!

 ばれないようにこっそり深呼吸。
 水に潜る前のようにぎゅっと目をつむると、一気に顔にぬいぐるみを押しつけた。
しおりを挟む

処理中です...