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【9】聖女 魔女になる

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「……やっぱりかまどや暖炉の火も、宝珠オーブを使えれば良かったですよねぇ」

 テーブルの上に乗ってぬいぐるみが言う。

「仕方ないでしょ~。もう宝珠オーブ残って無いんだから」

 宝珠オーブを作るには輝石が必要だ。購入するにも、お金が無い。

 ちなみに、わたしが持っていた残りの七つつ。
 バスルームの水を作り出すのに一つ。お湯にするのに火の魔術を入れて一つ。
 敷地の四隅と家の中央に埋めて、結界を作るのに五つ。
 これで全て使ってしまった。

「まぁ、お金が稼げるようになったら追々考えよう。それにほら、薪の燃えるパチパチいう音、わたしは結構好きだよ」
「まあ、ルチルさんがそう言うのなら良いですけれど……」

 ポコポコと鍋の中でお湯が沸く。
 わたしは薪集めの合間に森で摘んできたハーブを鍋に散らした。
 淡い黄色の花びらがお湯の中で踊る。オレンジのような柑橘系の香りがふんわりと広がる。お茶がほんのりと黄金に色づいたところで、火から鍋を下ろした。

 茶こしを使って二つのマグカップにお茶を注いでいく。

「はい、どうぞ。熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」

 テーブルの上のぬいぐるみの前にお供えすると、人形は大きなあくびを一つしてマグカップで手を温めた。

「眠そうだね」
「えぇ、ちょっと作りたい物がありまして。でも、この姿だと何かと不便で効率が悪いんですよ……」

 そりゃあ、身長二十センチだもんなぁ。
 ふむ……。

「あ、のね……。その、魔力少し返そうか……?」
「…………へ?」

 わたしの言葉にゴーシェはしばし固まった後、まぬけな声を出してこちらを振り返った。口から飲みかけていたお茶がたらりと垂れる。

「えぇ……きたな……」

 ぬいぐるみは慌ててぐしぐし口元を拭うと、

「いい良いんですか!? あんなに嫌がってたのに!?」

 うぐ……。
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