上 下
52 / 54
【9】聖女 魔女になる

5

しおりを挟む
「ジェイド! 待って待って! 帰らないで!」

 扉の前にいるであろう彼を慌てて呼び止める。

「い、いやでも――……」
「誤解だから!」

 いや、誤解じゃないかも知れないけれども!

 なんだこれ……! ここに居る三人誰一人として恋愛関係にないのに、浮気を見つかったビッチの気分を味わって居るぅ……!

 そろそろと伺うように扉が開いて、隙間からジェイドが顔を覗かせた。

「……えーっと、あの~、何かすんません。オレジェイドっていいます……」
「存じ上げております」

 にっこり笑う元ぬいぐるみ。

「ジェイド、これゴーシェだよ……」
「え!?」

 目を見開いてドアを開き、ジェイドはわたしとゴーシェを見比べた。

「え? え? え?
 だ、大丈夫だよルチルっち! オレ特殊性癖にも理解あるよ!」
「ちがうわっ!!」

 誰がぬいぐるみに欲情するヘンタイか!

「ジェイドさん、これが僕の本来の姿なんです。訳あって普段は人形の姿に身をやつしておりますが、主の口づけで一時的に元の姿に戻れるのです。
 我が主はお優しい方ですから、耐え難きを耐え、僕にいっときの自由をお与え下さったのです」
「な、なるほど……?」

 その説明で納得したのかしていないのか、ジェイドは首を傾げながら家の中へと入ってきた。

「いや実はさ、自警団事務所に通報があってさ」

 つーほー?

「連理の森と惑いの森との境界に、魔女が住み着いたって」
『…………。』

 ジェイドの言葉にわたし達は思わず無言になった。
しおりを挟む

処理中です...