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第一部 第一章 ここから始まる物語
sideルイ 守りたいものと本音②
しおりを挟む「ああ、王子殿下たちとかね」
「エリーは興味ないの?」
「ええ。今は何も」
今は、か。
その言葉に、少しだけ希望を見いだす。
「……そうすると、マリア嬢はエリーが結婚しなければ、独身を貫きそうな気もするけど」
そう告げると、まったく盲点だったと菫色の大きな瞳をさらに大きく見開いた。
うーん。うーん、と首を右に左に傾げながら考え込み、最後は髪と同じピンクゴールドの長い睫毛をぱさぱさと瞬かせた。
「ああ~、まあ、そうね。それは考えなかったわ。今の感じのままだとそうかもしれないけど、うーん、なるようになるというか、するわ。まだ先の話だしその時はその時で考える。まあ、いいじゃない。魔力は並以下だから私はこのままひっそりと生きていくの」
余生の話をしておきながら、その前にある結婚の話にはピンと来ていないようだ。
そして、大事なことをはぐらかされてしまった。結局、どうしてそこまで魔力をごまかし、学園に入学したくないのかわからないままだ。
エリザベスは、人前ではうまく基準を超えないようにコントロールしていた。
ひっそりの基準がどうやら人と違うエリザベスだが、そこは徹底している。
この歳でそんなコントロールができるくらい、高い魔力の持ち主。
ルイとしてはエリザベスにも学園に入学してほしい。そして、ともに学園生活を過ごしたい。
だけど、ひっそり行動はできないのに、そこは徹底してひっそり努力しているエリザベスを見ていると、ルイは他言しようと思えなかった。
なぜそこまでするのかはわからないが、知っているのはきっと自分だけ。
なぜって、エリザベスがそばにいても気を許し、それを見抜ける高い魔力の持ち主は自分だけだから。
もしかしたら、魔力の高いテレゼア家の者は、エリザベスの能力値をルイほど正確ではなくともわかっているのかもしれない。
けれども、今までそれらに何も触れていないのだから、どちらにしてもエリザベスの意思次第ということだ。
そう思うと、エリザベスが大事にしているものをルイも大事にしたいと思った。
そして、やはりルイももう少し、ほんの少しだけでも誰にも邪魔されずエリザベスといたいと思い、決断した。
それからすぐに、両親に入学するのを一年だけ延ばしてもらえないかと願い出た。
十四歳で入ることが慣例となっているのは十分承知しているけれど、どうしてもエリザベスと離れるのが嫌だった。
その結果は、もちろん否だった。
それでも、しつこく粘っていると父がまず折れた。
生まれてから今まで風のように流れゆくまま、気持ちもついていかないまま、言われたことをしてきた。
公務というなら、それが王族の役目。にっこり笑うのも公務。
嫌ではない、でも好きでもない。生まれ持った定めとして、連れて行かれるところ、そうすべきだからそうする。そこに個人的な感情は一切なかった。
ルイの初めてのワガママに、厳しいと思っていた父親は思ったより甘かったのだとその時初めて知った。
父の許可が出たら、今度は国王だ。自分たち従兄弟は同じ年なので、自分だけ例外というのは難しいことはわかっていたが、何もしないよりはいい。
当然、すんなりはいかなかった。国王というよりは、特に王子たちと話し合いの場を何度か設けることになった。
第一王子であるシモンは、頭ごなしではなくルイの理由を聞き、最終的には「自分たちより遅れをとることを覚悟の上ならば、したいようにすればいいと思う」と淡々と告げた。
第二王子であるサミュエルはそれとは反対に、「意味がわからない。勝手に離脱するようなことは許さない」と憤っていた。
自分たちは程よい距離感を持つライバルという立場であった。王子本人より、その周囲の期待が馴れ合いを許さず、競うことを望んでいる。
だが、実際は顔を合わせればそれなりに会話も弾む従兄弟同士。親兄弟は仲が良いので敵愾心を持つことはなく、国のために努力はするけれどもといった感じであった。蹴落としてというよりは、それぞれの努力の上で次代の国王が決まればそれでいい。
王に選ばれなくても、適材適所で国に尽くしていくことは変わりなく、それぞれの能力を伸ばせる場所に属していくだけという認識であった。
ランカスター家を名乗ることは、王族を名乗るということ。国王はその顔にすぎないと、ルイたちはそう教えられていた。
その上での、二人の反応だった。
──サミュエル、か。
そこでルイはエメラルドの瞳を不穏に揺らした。
ここに来る前の彼とのやり取りを思い出し、ついでにエリザベスを追いかけ回し、その細い生足を見たことを思い出すと不快になる。
初めてエリザベスの存在を認識したばかりのくせに、馴れ馴れしいにもほどがある。出会ったばかりのサミュエルに、エリザベスのあれこれを見られたのは痛手であった。
でも、自分は手を伸ばせば届く位置にいる。それが許されている。
そう思い、まだ心ここにあらずのエリザベスのピンクゴールドの髪をそっとすくった。
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