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第一部 第一章 ここから始まる物語
幸せの道とは①
しおりを挟む自分の甘さ、何度も転生しておいて姉のマリアとソフィアの呪縛対策のために動いていたら、そんな抜け穴がと猛烈に反省。
プシューッと全てのエネルギー抜けていくような脱力感に見舞われる。
それはそれは卒倒するほどの出来事だったので、その衝撃はたった数日で昇華されるものではなかった。
──ああ、本当に詰んだ。今までの苦労の全てがとは言わないけれど、計画が倒れてしまった。
くてんと力なく呆けていたら、ルイが私の髪をすくいとりこてんと首を傾げて見つめてきた。
「ねえ、エリー。疑われて傷付いたんだけど。慰めて?」
甘えるような声と耳に髪をかけられるくすぐったさに、はっと我に返りルイを見上げると、むっと眉間にしわを寄せ悲しげな表情で私を見ていた。
男性にしてはつるつるの肌は、隙を見ては外に出ている私より色が白いのではないだろうか。
顔立ちは八歳で出会った頃よりも大分しゅっとしてきて男らしくなってきた。
だけど、まだ少しだけ少年らしさも残る可愛らしい顔立ちでうるっと滲んで見える瞳に、ひどいことをしたと責められては平常心ではいられない。
「うううぅっ」
ああ、本当に混乱中。
ルイはルイでもできるだけ避けたかった王子の一人で、でも大事な友人。
五年間王子であると知らされていなかったことにショックを受けて怒っていたが、ルイという名前と、王家の家系図を知っていたらすぐにわかることだと言われ、自分の不甲斐なさにも打ちのめされたりと、今日だけでも感情の振り幅が大きい。
確かに、確認もせず騙されたと疑ったのは悪かった。
私自身もまさかと思いながらも裏切られたようでショックだったのだから、そう決めつけられたルイがショックを受けるのは当たり前だ。
八歳で出会ってから、いろいろ、本当に私のいろいろな言動に嫌な顔もせず根気よく付き合ってくれた友人はルイだけだ。
王子であるが、王子であるが、ああ、王子であるが、友としての謝罪はすべきである。
反省モードの私は、情けなく眉尻を下げてルイに視線をやった。
出会った頃は互いの身長は対して変わらなかったのに、いつの間にか差をつけられて見上げてしまう。
「ねえ、エリー」
「わかった。慰めって、どうしたらいい?」
この際だからルイが納得するまで付き合おう。
澄んだ眼差しを前に、私は神妙に頷いた。
「手、指絡めて繋いで?」
「ん」
すかさずかけられた言葉に、疑問も持たずに手を差し出しされるがまま指を絡め合う。
「とっても傷ついたから、それを忘れるために、目を見て好きだよって言ってほしいな」
「……好きだよ」
「名前もつけてね」
「ルイ、好きだ、よ」
「僕も好きだよ」
そう言って、ぱあっと表情を輝かせて嬉しそうに笑うものだから、私の頬は熱くなった。
──いやぁぁ~、ちょっと聞きました? 見ました?
申し訳ない気持ちで言われたことを言われた通りにしていたが、最後のにっこりはヤバかった。
第三王子オソルベシ。性格を知らないと思っていた王子の一人はとっても優しくて、そして可愛らしさの中に色気まであるようだ。
そっとメイドのペイズリーに視線をやると、顔を赤らめてそっぽを向いていた。年上キラーか。
第三者もいると思うと、さらに顔が熱くなっていく。ゆでだこのようになっていないか心配だ。
「ルイ、ちょっと恥ずかしいのだけど」
「エリーでも恥ずかしいと思うことあるんだね」
正直に言うまでもなく、転生を含めた人生で恋愛未経験。
これまで男性にふわふわと甘くなるような扱いを受けたことがなく、結構テンパっている。必死も必死。一応、自分も乙女なのだと再確認さえした。
だけど、返ってきた言葉は失礼で、一体ルイには自分がどう見えているのか。
「ちょっ、それどういう意味?」
「そのままの意味だけど。まあ、良い方向ではあるかな」
ふふっ、とそこでルイは密やかに笑った。
機嫌が直っているようで何よりであるが、勝手に何かを納得しているそれはちょっぴり面白くない。
「意味がわからないわ」
「わからないなら、わからなくても大丈夫。それでね、ここからが本題」
「慰めると言う話の?」
「うん。そう。もう諦めて一緒に王立学園に行ってくれるよね?」
機嫌も直っているようだし、口調もいつも通りだしと思っていたら直球がきた。
「えっ、それは嫌だ」
思わず速攻で返す。嫌なものは嫌だ。それを口にするのは自由だろう。
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