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第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です

sideルイ 出会い①

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 今でも鮮やかに思い出すことができるエリザベスとの出会いは、ルイにとって衝撃であった。
 目の覚めるような、と表現できるほどのそれにしばらく動けないほどであった。

 エリザベスとの最初の出会いは、父に言われるまま、いつものように貴族の屋敷に出向いたという程度の認識でテレゼア公爵家に訪れた日だった。
 誕生日会、お茶会などと称しては、王族と関係を持ちたい貴族の子息令嬢との顔合わせなどの回数は年齢を重ねるごとに増えてきた。
 そこで気の合う友人ができたりもするのでいいのだが、今まで心を動かされる令嬢には出会わなかった。

 そもそもルイは感情の起伏が少ないほうだったので、ただ言われ必要だから動いているというだけの認識であった。
 それに、王族側からすれば貴族の魔力レベルを知り関係図を知ることのできる機会でもあるので、ルイだけに限らずほかの王子たちも公務の一環として動いていた。そこに私情はあまり必要ない。

 ただ、今回の氷の外相と呼ばれるテレゼア公爵の屋敷は、招かれたのではなく父が強引に取り付けたようだったので、その経緯と噂に聞く美貌の令嬢というのはどういうものかと少し興味は持った。
 それはゼロに等しいいつもよりはという程度であったので、微々たるものだけどルイにとっては珍しいことではあった。

 そして訪れた屋敷。美貌のマリア令嬢はそれはそれは美しかったが、それだけであった。
 少しばかり気になったのでまた少しばかり残念に思い、ルイは王家に劣らず評判の庭園を散歩することにした。

 色とりどりの花壇は美しかったがそれも代わり映えなく見慣れたものであったので、その先にある大きな木を目指して歩く。
 強い日差しに疲れたので、木陰で休むことにした。

 それからほどなくして、「ワン、ツゥ、ワン、ツッツゥ」と少女の声とともに、パッチン、パッチンとハサミの切る音。
「それそれぇ」と鼻歌交じりの声とともに、ボキッと何かが折れる音がした。

 ──????

 それが何度か繰り返され、あまりに意味不明な声と音にじっと声のする方を見ていたら、突如見慣れないものが視界に現れた。

 ビュゥンと空に浮かぶトマトやキュウリ、トウモロコシやナスビといった野菜が、小さな竜巻風に乗ってこちらに向かってくる。ぐるぐる渦を巻きながら飛んでくる野菜たち。
 しかも、今度は「とりゃぁぁぁ、とりゃぁぁぁ~」と可愛い声で変な叫び。迫り来る野菜竜巻。それが目前まで迫ってきたかと思えば、それらはルイの休んでいる横にあるカゴに入っていった。

 そしてまた、「ほいせぇぇ、ほいせぇぇ」と今度はゆらゆら、ゆらゆらと今にも落ちてしまいそうになりながらスイカが飛んでくる。
 「ほいせぇぇぇ~」と気合の入った声を最後に、もうひとつあるカゴにトスッと入っていった。

 ──何事?

 野菜が飛んできた。まあ、原理はわかる。
 ルイと同じ魔力の風使いが野菜を飛ばしたのだろうけれど、ここは公爵家の敷地の庭園で花々があるはず。間違っても野菜畑があるような場所ではない。
 なのに、なぜこんなにも豊富な野菜たちが魔法に乗って、しかも変な掛け声とともに飛んでくるのか。

 あまりのことにぽかんと野菜が飛んできた方向を眺めていると、手前のトウモロコシ畑の一角からガサゴソとかき分けて少女が顔を出した。
 「やった。成功~!!」と叫んだ彼女の視線はカゴに向けられていて、それからルイへと視線が移動した。

「あら、ごめんなさい。人がいるとは気づかずに」
「いえ」
「…………」
「…………」

 無言で見つめ合うこと数秒。
 その間、エリザベスはものすごく混乱していたようだが、ルイはそのくるくると動く菫色の瞳に釘付けだった。

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