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第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です
sideルイ 目が離せない②
しおりを挟むそのエリザベスが目立ちたくはないとの意思はルイにも歓迎だったから見守っていたのに、早々に目立っている。その相手が従兄弟だというのが面白くない。
二人は何度か会話のあと、サミュエルは驚いたように目を見開きエリザベスをじっと見つめている。
──ああ、駄目だっ!!
それを見た瞬間、「失礼」そう言って目の前の人物に断りを告げると、ルイは足早に彼らのもとへと駆け寄った。
無自覚うっかりエリザベスが、堅物サミュエルをたらし込みにかかっている。そう思うと、身体が勝手に動く。
「いえ、私も混乱していておかしな行動を取ってしまいました。あの日のことはお互いに忘れましょう」
聞こえてきたエリザベスのその言葉にあの日の話なのだとわかったが、面白くない気持ちでルイは腕を伸ばすとサミュエルからエリザベスの美しい瞳を隠し、もう一方の腕でぐいっとエリザベスがこちらにくるように手を引っ張った。
──そこでじっと見つめない!
とん、と軽い身体がぶつかりそれを全身で支えながら、内心を隠しにっこりと笑みを浮かべた。
「エリー、探したよ。一緒に行こう」
「えっ、ルイ?」
うん。戸惑う声も可愛いけど、ルイの焦りなんて微塵も考えもしないのだと思うとさらに楽しくない気分だ。その気分とは反対に表情は笑う。
「ルイ」
サミュエルが戸惑ったような声でルイの名を呼んだ。
「……サミュエル。何をしているのかな?」
ととっとエリザベスの身体が斜めになるのを、ルイはふわっと笑みを浮かべながらしっかりと支えた。
でも、ささくれ立つ気持ちから、自身の従兄弟の名を発した声は思った以上に冷ややかになってしままった。まだまだ己は未熟である。
そこでなぜか気配を薄くしたエリザベスに視線をやり苦笑していると、何もわかっていないサミュエルが真面目な顔でことの状況を説明する。
「あの日の謝罪をしているだけだ。ルイも怒っていたし、何も言わないまま学園生活はまずいだろうと思った」
そして、悪かったと軽く頭を下げる姿に、ルイはふっと溜め息をつく。腕の中にいるエリザベスがまたぽかんとサミュエルを凝視しているのが気配でわかる。
──ああ、もう。真面目だなぁ。まっすぐ、まっすぐなんだよ、サミュエルは。憎めないけど、その真面目さ今でなくても良くない?
ルイはもう一度溜め息をつくと、サミュエルの肩をぽんっと叩いた。
「ああ。なるほど。もう済んだんだよね?」
「ああ……」
「なら、そろそろ教室に行かないと。こんなところで目立つことは感心しない」
「ああ……、そうだな。悪い」
「いいえ。エリー、行こうか」
「あっ、うん」
「俺も一緒に行く」
そう言って、一緒に歩き出した従兄弟にまた溜め息つく。どうせ同じ場所へ行くのだから、断ったところで同じことだが、何だか嫌な気がした。
「テレゼア嬢。非礼を詫びよう。申し訳なかった」
「……ですから、もう忘れていただけたら」
「そのほうがいいか?」
「ええ」
ほら、予感的中だ。こくんと頷くエリザベスに、サミュエルが思案顔でルイとエリザベスを見比べた。そして、にっと笑う。
「わかった。なら、過去のことは互いに水に流すとして、これからは同じ学友としてよろしく頼む」
「ええ。……えっ?」
「改めて、俺はサミュエル・ランカスター。この国の第二王子でありルイの従兄弟だ」
戸惑うエリザベスを尻目にどんどん話を進め、「楽しくなりそうだ」とぼそっと言った。だけど、その視線は自分にも向けられており、鈍そうなサミュエルにまたルイは曖昧に微笑んだ。
──ダメだよ。エリーは先に僕が見つけたんだから、そう簡単に渡さない。
「あれっ、こんなはずじゃ」とぶつぶつ言っているエリザベスを見ながら、ルイは彼女との初めての出会いを思い出した。
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