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第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です
sideルイ 目が離せない①
しおりを挟む今日から新たな日常が始まる。期待を胸にこの日を迎えた者も多く、ルイ・ランカスターもそのうちの一人であった。
新たな日々の始まりは、当然エリザベスと始めたいと一緒に彼女とともに学園内に行こうと入り口で待っていたら、そこで令嬢に捕まり相手をしている間にエリザベスが登校していた。
目の前の人物にサミュエルが姿を現わしたことを言われる前に、ルイは彼の前にいるエリザベスにとっくに気づいていた。
ああ、何をやっているんだと思いながらも、エリザベスの見せた顔は一瞬嫌そうだったので胸を撫で下ろす。
サミュエルと追いかけっこをして倒れる前は「ひっそり。ひっそりが幸せへの道なのよ」と語っていたエリザベスであるが、あの一件以降、何を思ったのかものすごく精力的に動き、そして令嬢としての振る舞いも優美になった。
ただし、彼女のテリトリー内でだけだ。
外では今まで通り大人しい半ば引きこもり令嬢である。だけど、振る舞いが優美になった分、艶が増してしまっていた。
「ひっそり。目立たずが幸せの道だと気づいたの」
変化にどうしたのかと問うと、エリザベスは満面の笑みとともにえっへんと自信満々にそう告げた。
ひっそりが一回減り、目立たずに変わっていた。
その日はなぜかテレゼア家お抱えの商人が持ってきていた宝石を一つひとつルーペで覗き、その価値について論議中。
そこから金の高騰について話し合われ、隣国の話まで広がっていた。
「やはり隣国の経済低下が原因なのかしら?」
「そうですね。ここ最近は新たに掘れる金も少ないようですし、ヴェルフェイム王が御隠れになってから現王の不発政策に不安が募っているようです。すぐ鎮圧されましたが、北の地域では暴動が起きましたし」
「あまりにも一方的で返って火種を生んだと聞いております。そのせいで流通経路を変えざるを得ず、金に限らず様々なものが高騰しだしているのですよね」
そこでエリザベスは考えるように顎に手を当てると、一番高いと思われる宝石を無造作に手に取り透かすようにして見上げた。
「ええ。よくご存知ですね。我らが所属している商工会はさらに広大なネットワークを敷いているため今のところ影響はありませんが、その火種の不透明さは無視できません」
「ええ。物があっても流通出来なければ意味がないもの。父様も懸念しておりました」
「さすが、テレゼア公爵様でございます。公爵様が気にかけてくださっていると知って商いに関わる私たちの心が救われます」
そんな会話の後のそれ。ひっそりと告げる令嬢の会話と思えないそれらは、相変わらず何かがズレている。
綺麗な物を身につけるために買うだけではなく、その価値を自身で見極め、それらに含まれる情勢に精通している商人と同等に話し合っている。
これも令嬢がするようなことではないが、屋敷でやる分には目立たないのでもうやりたいようにする。目立たずいろいろやるに変えたらしい。
どうやら自身のひっそりが自分で思った以上にできてなかったことをやっと理解し、ひっそりから目立たずに変えたようだった。
魔力だけでなく、窓から降りることや薬草作りといったそういったものもエリザベスにとってはひっそりしているつもりだったのには驚きだ。
だけど、それもエリザベスらしくて、ルイは聞いた時にはおかしくて、「あははははは!」と声を上げて笑ってしまった。
むっと睨まれたので、眦に浮かんだ涙を人差し指で拭い、はー……っと深呼吸してなんとか押しとどめたが、ここまでくると痛快すぎる。
今まで彼女なりの我慢と努力があったようで、ものすごく吹っ切れたのだと言っていた。
ルイからすれば、それらは今までと変わらないのではと思ったが、何やらやる気であったので黙っておいた。
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