詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第一部 第三章 騒動は唐突に降ってくる

悪役さながら②

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「ないようでしたら、私とドリアーヌ様の問題になりますね。どちらが正しいかはこれからの態度次第、ということになるかしら。取り敢えず、ドリアーヌ様はサラ嬢には謝ることをお勧めします。自発的にしろ、違うと言い張る・・・・にしろ、してしまったことは謝りませんと」
「…………」
「謝りますよね?」

 理詰めで責める私にドリアーヌは返す言葉もないのか、すがるようにシモンを上目遣いでうるうると見つめた。
 十四歳にしては出るところが出ているボディを持つドリアーヌ嬢は自分の姿が、男性に有効だと思っているのか、ぽってりした口を少し開けてシモンにアピールする。
 そんな彼女を遠ざけるようにさりげなく距離を取りながら、第一王子はただその視線を受け止めただけで何も言わなかった。

 そもそも、そこで縋るなら現場を見たというシモンの側近であるユーグのほうが有効だろう。
 弁明するのも先にそちらにと思うのだけど、とことん王子しか目に入っていないようだ。

 呆れ返っていると、ドリアーヌは誰も味方をしてくれないと悟ったのか、私をそろそろと見ると、「ごめんなさい」と小さな声で謝った。
 私は溜め息をつく。なんだか、自分より年下を相手にしているようだ。

 転生を繰り返す私は、無駄に度胸というか多少のことで揺らがない精神が作られている自覚はあった。そもそも念願があるのだ。
 なので、腹は立ったがこの辺でしっかり教育をしなくてはと、彼女の未来、そして自分の学園生活に支障がきたしてしまうリスクを考える。

「それは違います。謝る相手はサラ嬢にですよ。悪いことをしたら謝る。これ基本です」
「……はい。モンタルティ嬢、ごめんなさい」

 ここで悪くはないと言い張る度胸はなかったようで、ドリアーヌはきゅっと顔をしかめながらも謝罪の言葉を口にした。
 その姿をじっと見つめてはっと息を吐き出すと、私はゆっくりとサラのほうへと身体ごと向けた。

「サラ嬢、私の名前が出ているのですが、今はこのような形でしか幕引きできないことを申し訳なく思います」
「……いえ。もう、教科書も元通りですので、今後こういうことが起こらないのであれば私としては」

 事を大きくしたくない、ということなのだろう。
 私もこの件はあまり引っ張りたくないので、サラがいいのならこの辺で終わりにしておきたい。

 ああだこうだとやりあっても、ドリアーヌが認めない限りは平行線。
 なら、穏便に流してしまってこのことが抑止力になるほうが健全だ。幸いにもシモンが下手に口を挟まないので、引っ掻き回そうという外野もいない。

「優しいですね」

 本当に可愛いなぁと思わずほわっと微笑むと、サラは俯き加減で顔を赤らめる。
 その謙虚さ。やっぱり可愛い。癒されるわ~と力をもらった私は、よしっとまたドリアーヌに向き直った。

「今件は不透明ですし、お優しいサラが許してくださったのでこのような形で収束したいと思うのですがよろしいでしょうか? シモン殿下、ノッジ様」
「まあ、それがいいのでしょうね」

 ずっと軽蔑するようにドリアーヌに視線を向けていたユーグが、冷めた目で私を見ると肩を竦めた。
 とことんどうでもいいといった感じであるし、実際ユーグにはどうでもいいのだろう。
 王子がいるから仕方なくこの茶番に付き合っているというのがありありと見えて、意外とわかりやすいタイプかもしれない。

「本人が謝り、された者が許したのなら、これから・・・・というのが大事だろうね」

 コバルトブルーの瞳でドリアーヌを見ると、シモンは静かに頷いた。
 そんなに大きな声ではないのに、明瞭に通る声にドリアーヌは力なく項垂れた。

 その顔色は青白く、その心中はいかにという感じであるが自業自得である。
 現場を見ていた本人と、そのユーグが仕える私の味方でもないシモンがそう言うと誰も異議を唱えられない。

 やっぱり、完璧王子だ。関心する。ありがたい。

「ありがとうございます」
「…………」
「…………」

 王子たちに感謝の意を伝え礼をするが沈黙を持って返ってくる。彼らからすれば、私のこともよく知らないので要検討といったところだろうか。
 まあ、立場が悪くならなければそれでいい。私は、意気消沈するドリアーヌにまだ終わりではないと話を続けた。

「ドリアーヌ様。もうひとつこの場ではっきりさせたいことがあります。私はルイ殿下の友人として、先ほど王子である彼を侮辱した言葉を撤回していただきたいです」
「そんなっ。そのようなことはしていません」

 王子という言葉に、慌てるように首を振る。
 自覚していないのか、していないのだろうな。だけど、こちらは友人を侮辱されて黙っていられない。

「いいえ。言いましたよ。魔力が並の私がこのクラスにいるのは、彼のおかげだと。それはルイ殿下、そして王立学園に喧嘩を売っているようなものではないでしょうか。そんな簡単に不正や融通を効かせるような甘い場所ではないことを、何よりこのクラスにいるあなたがわからなければならないのに」

 そう告げると、ドリアーヌははっとしたように目を見張り、私、ルイ、その横にいるサミュエル、そしてシモンへと視線を移し、「そんなつもりは」と首を振る。
 さっきの話では痛み分け(こっちは本当にいい迷惑)であったが、この問題はしっかりケジメをつけるつもりだ。
 教科書問題が有耶無耶であったからこそ、この件は肝に銘じさせたいという気持ちが大きい。何事も最初が肝心。

 今更、故意ではなくぽろっと出たものだったとしても、放たれた言葉は取り消せない。
 皆がいる場所で告げたその言葉、この場で私が払拭するっ!

 さあ、魔力レベルの証明をしようではないかと、私は息を吸い込んで声を上げた。


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