詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
55 / 185
第一部 第四章 ひっそりとうっかりは紙一重

チャラい密偵②

しおりを挟む
 
「ええー。でも、マリア嬢はすっごく心配されていたし、男としてあんな美人に頼られるともうダメだよねぇ」
「本当にニコラ様は軽いですね。マリア姉様に手を出さないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫。マリア嬢は観賞用だから。どちらかというとエリザベスちゃんのほうが俺は好みかなー」

 そこで黙って横で話を聞いていたルイが、にこりと穏やかに微笑みながら口を開いた。
 だけどその表情とは反対に、その双眸には非難の色を隠しもせず冷たくニコラを見据える。

「あなたは口から生まれてきたようですね」
「ああ、よく言われます。それでよく女性に振られるんですよねー」

 ルイの穏やかな声の嫌味(?)にも軽く肩を竦め、ニコラはへらっと笑いあっさりとスルーする。
 わかっていてなのか、わからなくてのその態度なのか。
 それにしても、やっぱり軽い。

「エリー。まともに相手しても仕方がなさそうですけど、彼とまだ話したい?」
「うん。心配ではあるけど、交渉はしてみたいと思います」
「おっ、何かな? エリザベスちゃんの言うことなら内容によっては聞いてもいいよー」

 こうして会話をしていると、すごく軽いが頭が悪いわけではないことがわかる。細められる目は笑ってはいるが、その奥にあるそれはこちらの反応を含めて値踏みをしているようだった。
 私がそう思うのは、商人たちとよく話すからなのかもしれない。
 顧客に取り入ろうと笑顔を浮かべながらも、利になる相手かを見極める隙のなさが似ている。しっかりと自分たちの関係を把握し、自分のキャラも理解して立ち回っているように思えた。

「なら、姉様に私にバレたことは告げずに、このまま密偵でいてください」
「えっ、いいのぉ?」

 おやっと細い目を精一杯開いたニコラに、私はこくりと頷く。

「はい。姉様のことなので、ニコラ様がダメになればまた違う人に頼むと思います。そうなることは避けたいことなので、誰が密偵であるかわかり、なおかつ情報をニコラ様がコントロールしてくださるほうが助かります」
「あまり現状と変わらないのでは?」

 面白そうに目を細め、にまりとニコラが笑う。想像通りの反応に、私は神妙に見えるように頷いた。

「そうですね。それでいいんです。ちょっとというのが私にとっては随分と違うので」
「そうなんだ?」
「はい。ニコラ様もお気づきのように、姉様が私のことをとても心配してくださるのは嬉しいのですが、その、ちょっと、大分、シスコン気味でして。情報が絶たれたらどう出るかわからないですし、ある程度姉様の状態を見て話してくださったら。そういう操作や状態を探るのはニコラ様は向いていると思いましたので」

 私の言葉を聞いて、横にいるルイが不機嫌そうに溜め息をついた。納得はしていないけどねとばかりの視線を向けられ、私は困ったように笑うしかできない。
 ルイも心配してくれているが、姉の癖のあるシスコン具合を知っているので、最終的には私の考えに同意してくれたのだろう。
 しかし、今度はサミュエルが納得いかないと声を上げる。

「エリザベス嬢。この男を信用するのか?」
「いえ。信用というか、適任だろうと思いまして。ルイならわかってくれると思いますが、姉様の私に対する愛情は少し異常ですので。この形が一番だろうと考えました」
「そこまでなのか?」

 サミュエルの言葉に、そうなのよと私は力強く頷く。

 ――これまでどれほどその愛情と心のバランスを保つのに苦労してきたかっ!

 何より十六歳の呪縛問題。愛の呪縛はがっしり絡みつき動きにくいものだ。
 あれこれ思い浮かべると気持ちが高ぶってしまう。かっと目を見開いて、私は力説する。

「そこまでなんです。どうしてそこまで愛でてくださるのかと私自身ですら疑問に思うことなので周囲もわからないと思いますが、超がつくほど大事にされてます」
「お、おう」
「私も姉様が好きですが、それはそれ。これはこれというところでして。ここで彼を逃してしまうとまた一からですし、私も窮屈というか……」

 そこで、サミュエルが私の剣幕に驚いたようにのけぞっているのに気づき、徐々に言葉尻が小さくなる。
 ここは屋敷じゃないから落ち着くのよと自分に言い聞かせ、こほんっと咳をすると続けた。

「というわけで、阻止すればするほど過激になると思われるシスコン対策は、多少の妥協が必要なので、それが彼です」

 そこで私は、ニコラに向き直り彼の茶の双眸を見つめた。
 ここが勝負! と、少しでも彼の変化を見逃したくなくて、ぎゅわっと目に力を入れた。

「姉様にバレたことが伝わる前に対象者を知れたことも良かったです。情報を流すことが変わらなければ、別にニコラ様としては失敗でもなんでもないですよね?」
「まあ、確かにそうだけど。マリア嬢を騙しているみたいで嫌だなぁ」

 嫌だと言いながら、ニコラのその瞳は面白そうに私を見ている。これはあともう一押しというところか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...