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第一部 第四章 ひっそりとうっかりは紙一重
王子のことは諦めました②
しおりを挟む「俺も楽しみだ。初めて出会った時は少し混乱もしていたから、この目でしっかりと確認してみたい」
「……ですから、過剰な期待をされるのものでも」
サミュエルの燃えるような赤の双眸が期待をあらわにまっすぐ私を見つめてくる。
あまりにも曇りない眼差しに、私は複雑な気持ちで笑みを浮かべた。
追いかけっこというスポーツ(?)を通し、その後互いに歩み寄ったためか、サミュエルは学園に入ってからあの衝撃的な出会いからは考えられないほど友好的である。
双眸同様まっすぐな気質は好ましいが、異性であっても一度懐に入れたらどこまでも曇りなく接してこられるので、この一か月、私は距離を取ろうと思うまでもなく釣られるように距離を縮めてしまっていた。
信頼を寄せられると、突き放せない。
「過剰ではないと思うが? 俺が見たあれこれと今日の出来事。それだけでも興味深いことだ。それに、魔力合わせが初見であれだけスムーズだったことを思うと、これから互いに能力を知っていて損はないと思う」
あれこれという言い方は気になるけれど、魔力合わせとは親和力が高ければ高いほど様々な魔法が使える可能性も出てくる。
持っていない魔力も馴染んで使える幅も増えることもある。あくまで、自分の持っている属性に少しおまけみたいな程度であるが、なんでも使い方次第。
何が起こるかわからないので、魔法は多く器用に有効的に使えるようにしておきたい。
フラグを避けると同時に、それも生きる可能性を増すのではないだろうかと、今までできるだけ関わらずと避けてきただけであったが、ルイが王子と知ってそれから一緒に過ごすうちに考えるようになったことだ。
「それもそうですね」
「ああ。実践ってなったときは協力することも出てくるからな」
サミュエルは気が早いが先のことを告げると、シモンがゆるりと笑みを浮かべ同調する。
「ルイとサミュエルと相性がいいとなると、私とも相性がいい可能性もあるから楽しみです。同じ水属性同士でどこまでのことができるのか興味があります」
「水属性同士」
確かに、私もシモンも魔力が高いのでその上親和力が高ければどんな魔法が使えるのか、単純に好奇心がくすぐられる。
可能性というものが目の前にあると、つい手を伸ばしてみたくなるのは人の性だろうか。
「サミュエルとシモンの言う通りだよ。エリーには話してなかったけれど僕たち王族の能力を邪魔せず協調することは、簡単ではないとされているからね。合わせられるということ自体、高い能力の証拠なんだよ」
「ええぇ!? 前のときルイは言わなかったじゃない」
そこ。先に教えてほしいポイントですけど。
「うん。だから言ってなかったねって言ったでしょう?」
「ええっ~。それせこい。後出しされて負けた気分よ」
なんか釈然としない。
「なんで負けた気分になるの?」
「だって、言われてたら今日のこともうちょっと考えたのにぃぃ。そしたら、もうちょっとひっそりとできたはず」
知っていたら、己の魔力についてもうちょっと自覚が持てていた、はず。
少なくとも、見せ方を変えられていたはずだ。
「そう言われてもね。知っていたとしてもエリーは気持ちが乗ったら突っ走るから結局は同じような気もするけど」
「いいえ。これは絶対後出しよ」
「なら、それでもいいけど。後出しでも結果が出たってことだよね。もう観念すればいいのに」
ルイの言葉に、私はあからさまにむぅぅっと頬を膨らませた。
大人びたり幼くなったり、印象がころころ変わる。ルイがくすりと笑うと、ぽんっと私の頭を優しく撫でた。
「エリーも公爵令嬢ならわかるよね? これはいわば、王族、そして高い身分、そして魔力を持った者の義務みたいなものだよ。魔力があるだけで出来ることの幅が違うのだから、この国を守るために貢献していくことはとても大事だ」
「わかってるけど……」
ルイの続けざまの説明にも、私はうーんと首を捻りどこか納得のいかないと視線を向けた。
けれども、私の反応も予測済みなのか強引にルイが話を持っていく。
「まあ、僕としてはさっきも言ったけどエリーと一緒にいれるなら別に何をしてもいいのだけどね。いつにする? 今週末?」
「えっ、もう決めるの?」
戸惑いを隠せない私に、ルイはにこにこと笑みを浮かべる。笑顔で押し切るつもりらしい。
「そうだよ。せっかくこうして人目も気にせず話せるのに今決めないでどうするの。それで週末は?」
「週末? ……あっ、今週末はダメなのよ」
「先週までは予定入ってなかったよね?」
つい最近、ルイと予定の話をしていたばかりだ。
明確に約束はしていないが、互いに予定が入らなければ一緒にくらいのノリだった。
「うん。でも、ジョニーに会いにいくって決めたから今週末は都合が悪いわ」
「……ジョニーって、誰?」
柔らかな笑みを浮かべていたルイが瞬きを忘れたかのように固まり、確認するために出した声は掠れていた。
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