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第一部 第五章 終わりの始まり
秘密の花園②
しおりを挟むゲームの世界だからといって、メインの場面しか設定されず見えていないが、日々の積み重ねがあるからこそのキャラなのだ。
王族だからで、皆が皆が最初から優れていると思い込んでいたが、持って生まれたものにあぐらをかくことなく、積み上げてきた賜物なのだ。
変なフラグさえこの先なければ、友人として友好関係を続けていけたらと思えるような時間だった。
「だから?」
「ええ。この国に生まれてよかったと思います」
上に立つものが努力を怠らない。
立場に驕ることなくいてくれることに、どれだけの国民が救われるだろうか。そう告げると、ルイはいつものように優しげなエメラルドの瞳を緩めにっこり笑顔をくれる。
「僕もエリーが同じ国、同じ時代に生まれてくれて良かったよ」
「ありがとう。私もルイに、皆さまに出会えて良かった」
初めは王子だと知らなかったし、知ったあとでも変わらずそばにいてくれるルイは、この学園に来てどれだけ存在が大きいことか。
何がどう詰むのかわからないけれど、ルイならば信じることができるし、信じてくれる気がする。
そう思える友人を持てたことで、この先がだいぶ変わってくる。
そこでサミュエルがごほんと咳をすると、切れ長の赤みを帯びた瞳が咎めるように私を見た。その美貌はゆっくりと柔らかな笑みに溶けている。
「よくそんな平然と」
「えっ?」
「あぁー。いや。俺も……お、この国が好きだ」
そこでサミュエルは顔を赤くした。
自国を好きだと言うだけで照れるサミュエルであるが、ここに来るまでに騎士団の者たちと親しげに話す姿もあって、その内容は自国の警備を大事に思っているものだった。
平和なこの国は有事の際に彼らが尽力してくれることによって守られており、騎士たちの存在は非常にありがたい。
魔法があるから、使えるから、それだけで国は成り立たない。警護だけでない、生産、流通、医療などそれぞれの役割が機能してこその国なのだ。
身分が高いからといって当たり前ではないその態度を間近で見て、私の中での王子たちの株は爆上がりだ。
「そうだね。そう思ってもらえる国がこれからも続くよう頑張らないとね」
シモンがにこりと笑みを浮かべそう告げると、表情を改め私のほうへ身を乗り出してきた。
──うわっ、超絶美形が近い、近いぃ~。
「ついてるよ」
固まった私の口の横についた生クリームを何事もなくとってくれるシモンを前に、私はぴきぴきっとまた固まった。
――何が起こった?
シモンは平然とした様子でクリームがついた手をハンカチで拭いているが、私は突然のことに混乱中だ。
「シモン。口で言ったら良かったんじゃない?」
ルイがびっくりして固まる私を見て嗜めてくれるが、シモンは動じた様子もなく淡々と答えた。
「動いたほうが早いと思って」
そうか。動いたほうが早いと思ったのか。
――って、なるかぁ~っ!?
今日で少しだけ王子たちを近くには感じたが、ひょいっと食べカスを取ってもらうほど縮めてないはずだ。
これがレディファースト? いや、違う。
とにかく、美形って緊張する。しかも、完璧がつくような人は特に。下手なことができないというか、しにくいというか。
ドギマギしながら瞬きを繰り返していると、じろりとユーグに睨まれたのでへらりと笑顔で返したら、さらに睨まれてふんっと顔を逸らされた。
勝った! むしろ、変な対抗意識まで燃えてきた。
面倒なやつとは思われてそうだけれど、何か言われるでも嫌がらせされるわけでもないので、王子たちが何も言わない限り私も触れるつもりはない。
王子たちに囲まれて物怖じもせず、媚びることもせず、自然体で彼らと話す存在は希有なことを私は理解していなかった。
そんな様子を双子たちがじぃっと見て、ひそひそ言い合っていたことをこの時は誰も気づいていなかった。
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