詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
72 / 185
第一部 第五章 終わりの始まり

side双子 いたずらな天使③

しおりを挟む
 
 この初っ端のやり取りから、もしかしたら無駄になるかもと思いながらも双子は頑張った。
 あれこれ虫や爬虫類を捕まえては見せてみたが、どれもこれも嫌がるどころかことごとく喜ばれる始末。

 ──一体、何に驚くんだ?

 しかも、次はどんな? とばかりに期待のこもった眼差しで待たれる。

 最後のほうは本来の目的も忘れて、どちらがエリザベスが驚くような生き物を見つけられるかの勝負になっていた。
 生き物だ。もう、種類に限らずいくべきだと二人は駆けずり回った。

「はあ、はあっ」
「……疲れた」

 ジャックとエドガーは息も切れ切れになり、ぐったりとそれぞれ捕まえてきたものをエリザベスに差し出した。

 これならどうだとばかりに選んだ生き物は、この辺りにしか生息しないと言われる、キュウと呼ばれるやたらもふもふしたボールみたいなキュウと鳴くと生物と、リンリンと呼ばれるその名の通り、リンリンと鳴く羽がある生物である。
 キュウはハムスターみたいで、リンリンは小鳥のようだけど、実際は何の生き物かは成長しないとわからない。

 とにかく、その生物たちはすばしっこく、どちらも手の上に乗るくらいの小ささで捕まえるのに苦労した。その分、レアものだ。
 これなら驚くだろうと、二人は期待のこもった眼差しを向けた。

 すると、予想通りというか、それ以上の反応。
 目の前でエリザベスの顔が見る見る蕩けていき、ぐいっと顔を近づけてふわふわっと微笑んだ。

 その近さに、思わずぼっと二人同時に顔が赤くなる。
 自分たちから仕掛けて近づくことはあっても、相手からは近づけさせたことがないため免疫がない。

 自分たちが意図的に出す笑顔ではなく、心からのものだとわかるその蕩けた笑顔にすごく満足する。
 あれっ、目的が変わってやしないかと思いながらも満たされた。

「「驚いた?」」
「うん。すっごくびっくりしました。とっても可愛いです。初めて見ました!」

 触るかどうかを聞く前に、キュウはコロコロ転がり、リンリンはパタパタとエリザベスのもとへとまるで引き寄せられるように彼女の手の平と肩の上に乗った。

「くぅぅぅっ、可愛い~。どうしよう。可愛いですぅ。なんて可愛すぎる生き物なの!?」

 興奮したように手と肩に乗ってきたキュウとリンリンを、エリザベスは指で優しく撫でまくる。
 二匹は満足したように、キュウ、リンリンと甘えた声で鳴いた。

 ──面白くない。

 その様子を二人は唖然としながら長め、同時にむっと眉間を寄せた。

 捕獲するのにすごく苦労したのにとか、王族にしか懐かないと言われているのにとか、僕らでさえ面倒くさいなとばかりに捕まえられてやったんだぞと偉そうな態度をしていたのにとか、そういうのもあるが……。
 ここで出会ってからずっと、エリザベスの瞳は自分たちをきらきらとした目で見ていたのに、今はその双眸は二匹に向かっている。

 可愛いものが好きそうだから、嫌がるものではなくて気づかぬうちに可愛いものを見せて驚かせたいと思って捕まえたものを、興奮するように愛でているのが気に食わない。
 その瞳は自分たちを見ていないとつまらない。そう思ってしまった。
 
 ジャックとエドガーは視線を合わせると、小動物を愛でて自分達の様子に気づかないエリザベスの名前を同時に呼んでいた。

「「エリザベス」」
「丸っこいのがキュウ」
「小鳥のようなのはリンリン」
「「ここでしか生息していないとされる動物で、滅多に見れないものだよ」」

 同時ににこっと笑って告げると、すぐにこちらに向けられ戻ってきた菫色の双眸に自分たちが映し出され満足する。

「まあ、そうなんですか!? そんな貴重な動物を捕まえることができるなんてさすがです。すごいですね! 私は今すごーく幸せです」
「エリザベスは可愛いものが好き?」
「はい。大好きです」

 うんうん、と頷くエリザベス。
 確かにカエルも愛でてはいたが、キュウとリンリンとの出会いは段違いで喜んでいるのがわかる。

「そう。なら良かった」
「頑張って捕まえた甲斐がありました」

 双子はほくほくと顔を綻ばせた。

「二人ともありがとうございます。見せていただけてとっても嬉しいです」
「だって、エリザベスの喜ぶ顔が見たかったんだもの」
「そうだね。嬉しそうで良かったです。でも、二匹ばかり見るのではなくて僕たちも頑張ったと褒めてほしいな」

 必殺、甘え光線を放ちながら同時にエリザベスを見ると、彼女は「はうっ」とわずかに後ろに仰け反り、続いてはんなりと花が咲き乱れるような笑顔を浮かべる。
 白く細い腕が伸びて、柔らかな指が二人の頭の上に乗る。すっと髪をすくように優しく撫でられ、二人はこそばゆい思いで目を細めた。

 だけど、二三回往復したところで止まる。
 エリザベスが「すみません。失礼なことを」と慌てて手を引っ込めたので、二人して「「もっと」」とねだっていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...