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第一部 第五章 終わりの始まり
side双子 いたずらな天使②
しおりを挟むカエルを摘まみあげ、エリザベスはふ~んとばかりにじろじろと観察する。
グエッと鳴いたので、「オスかしら~」なんて呑気にあらゆる角度から見ようと動かすたびに、ぶらんぶらんとカエルの足が情けなく揺れる。
「あら、足は少し透明なんですね~。領地にいるのは赤みがかっていましたが、また違う種類なのかしら。……どうしたのですか?」
「ううん。エリザベスはカエルは平気なんだ?」
「?? 大丈夫だと思ったから見せてくれたのでは?」
信じきった顔で見つめ返され、ジャックとエドガーは慌てて頷く。
ぼんやりしているかと思えば、敏い。自分たちを信じた上での発言であるが、胸がそわそわそわする。
確かに、苦手だと思ってカエルを見せる行為は自分たちのキャラが崩壊しかねないのでありがたい解釈なのだけど、なんだかすっきりしない。
しないけど、イタズラしようとしているとバレるよりはいいと、ジャックはふわっと笑って軽く首を傾げてみせた。
「そうだよ。さっき蝶が寄っても驚いてなかったから」
「まあ、よく見てくださっているのですね。嬉しいです」
「もちろんだよ。エリザベスと仲良くしたくて」
エドガーも同じように弁護しながら、ふわふわっと多めに笑顔を振りまいて首を傾げる。
そうすると、大抵の人が深く考えるまでもなく双子の言葉を鵜呑みにしてくれるのだ。
「まあっ! とっても光栄なお言葉です」
「僕たちはまだ学園に行けないから、こうして会えるのもなかなかないでしょう? だから、ここでたくさん仲良くなりたいな」
「仲良くなりたいな~」
「エドガー様。ジャック様……」
二人がせぇのぉとにっこり笑みを合わせて告げると、それはそれは嬉しそうにエリザベスは笑った。
しかもなぜか打ち震えハンカチをさっと出して口元を押さえているが、明らかに喜んだ様子だった。
──ちょっとは警戒したり、疑ったりしなよ。
その様子を見て、ジャックは今度は違った意味でイライラしてきた。さっきのそわそわも胸に残っているしで落ち着かない。
エドガーを見ると、すごく目をまん丸にしてエリザベスを凝視していた。
「普段、お二人はここによく来られるのですか?」
「うん。魔法演習の合間にね。この川は綺麗だから、行き詰まった時とか休息するにはとてもいいんだ」
「確かに綺麗ですから、気持ちも新たにして頑張ろうと思えますね」
「そうだね。ところで、そのカエル全然逃げないね」
「あら、本当ですね。敵意がないのがわかるのかしら?」
こてんと首を傾げ、そこで愛おしそうに先ほど手の平に乗せそのまま居座るカエルを見た。
カエルの黒々とした瞳もエリザベスを見つめているようで、そんなことはないと思うのにしばらく一人と一匹は見つめ合った。
「……そろそろ逃がしては?」
理解できない。意味がわからない。思っていたのと違う!
こちらが仕掛けたことなのに邪魔になったカエルにジャックがそう告げると、そうですねと微笑むとそっと地面に手を持っていくと逃がした。
ぴょんぴょんと跳ねていくのを、エリザベスは実に楽しそうに見送り目を細めている。
ひとしきりその様子を眺めていたエドガーが、わずかに不満そうに唇を尖らせた。
「楽しそうだね」
そう告げる声もちょっと不服そうで、それに気づかないエリザベスは何かを思い出したようにくすりと笑った。
「はい。動きがぺったんぺったんと面白いので楽しいです。母様は跳ねるごとに飛び上がらんばかりに叫んで逃げますが、私はわりと平気です。小さな頃ですけど、七色のカエルを見つけて持って帰ったらものすごく叱られました」
「持って帰ったの?」
外でカエルを見つけて持ち帰るなんて、そんなことをする令嬢など聞いたことがない。
最初のおしとやかな印象からどんどん離れていく。
「ええ。珍しかったので見てもらおうと思ったのですが、それがいけなかったようで。喜んでもらえるどころか、元のところに戻してきなさいとそれはもう静かに地を這うがごとく怒られました。だけど、さすがにそれは面倒くさくて今でも屋敷の庭の池のどこかにいると思います」
「へえ」
内緒ですよ、と指に手を当てて笑うエリザベスに、ジャックとエドガーは顔を見合わせた。
七色のカエル。本当にいるなら見てみたいが、さすがに掴む勇気は二人にはない。カエルに関しては相手のほうが上手なようなので諦めることにする。
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