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第一部 第五章 終わりの始まり
side双子 いたずらな天使①
しおりを挟む「楽しいね」
「楽しみだね」
その両脇を挟むように立っていたジャックとエドガーは、視線を合わせるとにやっと笑みを浮かべた。
警戒心もなく、満喫しているエリザベスの様子に何をして遊ぼうかと互いにほくそ笑む。
兄たちが秘密の庭園に部外者を案内し、ましてや女性と聞いては黙っていられない。
事前にこの日のことは知っていたので、今日は絶対邪魔をしてどんな女性か顔を拝んで見極めてやると二人は誓っていた。
王立学園の最高クラスであるということは、そこそこの実力はあるのだろう。
魔力合わせだとも聞いていたが、だからと言って軽々しくここに入っていいものではないのだ。
兄の微笑を受けて勘違いする女性は、ユーグとともに自分たちが片っ端から片付けてきた。
崇拝する兄の横に立つ者は美しく聡明な女性でなければならない。もちろん、従兄弟たちの相手もだ。
身分が見合うだけでは駄目であり、今まで見てきた中で合格点を取れる者はいなかった。
第一印象はとても大人しく、まあ綺麗な部類であったエリザベス・テレゼアは、一緒に時間を過ごせば過ごすほど、どこか違和感を覚えた。
ほかの女性とは違う。でも、何かを隠している感じに双子はますます彼女の行動を監視した。
にこやかに笑いながらであるので、呑気ににこにこと笑顔を返されるたびに、双子は見てないところでへっとしかめ面をしていた。
たまに言動が変であったが、それ以外は結構まとも。そう思ったすぐに何かをしでかすといった印象だ。
最も驚いたのは魔力を出すときの掛け声で、二人は警戒するのも解いて思わず、「ぶほっ」と吹いてしまった。
あれには驚いた。
なんだあれ? と幻聴を疑うレベルであったけれど、あれだけ連発されたら詠唱ありきの魔法発動だということはわかった。
その上、その魔力が桁違いであった。王族に負けないくらい保有し、しかも使いこなしていた。
なるほど。この魔力で兄さんたちの関心を引いたのだなと、吹いてしまったことはなかったことにしてにこにこと笑みを浮かべながら、双子ならではの意思疎通で見つめ合った。
聞けば、この令嬢がルイを誑かした女性だというではないか。
しかも、いつも女性の相手は面倒だと言って愛想笑いさえしないサミュエルまで穏やかな顔をしていたので、彼も取り込まれてしまったのだろう。
恐るべしテレゼア公爵家。
外相のテレゼア公爵もその奥方も、そして聖女と言われる姉のマリアも、周囲を巻き込み虜にする。その家系だと思えば、やはり警戒を怠ってはいけない。
双子は気を引き締め直し、虎視眈々と化けの皮を剥がしてやろうと狙っていたところで、その機会が訪れた。
よしと気合を入れて庭園の奥へと案内し、呑気に川を覗き込んでいるエリザベスの背中を見ながら、ジャックはきょろきょろと周囲を見回し、あるものを見つけてニンマリと笑った。
「エリザベス、これ見て」
ジャックがひらひらと手を振りエリザベスを呼び、さっき捕まえたカエルをエリザベスの足元に置いた。
ぴょんっと跳ねて、エリザベスの靴の上に乗る。
──ナイスだ。カエル!
さぞ、驚くだろうとジャックとエドガーは楽しくて表情を緩める。やはり、正義は勝つ。自分たちに運が向いている。
これで情けない声だったりとか、ヒステリックに怒るとかしてくれたら儲けものだ。
女性に嫌われ気味の両生類。されど、この秘密の庭園にいる生物はそれぞれ光の恩恵に預かりありがたい生き物ばかりなのだ。
そんな生物に対して、負の感情や行動を示すのは避けるべき行為である。
二人は、ちょこんと乗ったカエルを見たエリザベスの反応を楽しみに待った。
エリザベスの口がふるっと揺れ、驚くように開かれていく。
よっし、こい! そして、もう二度とここに来たいと思わなくなればいい。
自慢の兄に近づく者は排除。子供らしく無邪気な振りをしてにっこりと笑い、誰にも知られずこなしてきた。
こんな簡単に自分たちに騙され、こんなことですぐ逃げ出す女性なんて兄にはふさわしくないから、早々に退場してもらおう。
二人はここまできた女性を、兄たちがいない間にどうにかしたくて必死だった。
名付けて、『泣いて叫んで、兄たちに近づいたことを後悔させよう作戦』だ。
さあ、泣いて叫んで後悔するがいい、とダブルで天使の笑みを浮かべその時を待った。
「……まあっ! 鮮やかな黄緑のカエルですね。あっちにもいますよ。よく見たらおたまじゃくしもたくさんいますね。やっぱり、生態系をもっと知りたいわ」
──あれっ?
だけど、返ってきたのは想像していたものと違った。しかも、なぜか生態系まで話が大きくなっているではないか。
カエルから、どう考えたら生態系の話になるのだ。
双子が思惑違いに戸惑っている間に、エリザベスはにこにこと目尻を下げると、えいっとそのカエルを掴んでみせる。
しかも、その動作が速くて手慣れた感じに、二人はまじまじとエリザベスを見つめた。
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