詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第一部 第五章 終わりの始まり

ハンカチの準備は万端です③

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 ──可愛すぎて、ぐりぐりした~い。
 
 欲望を抑えてそっと手を乗せると、エドガーが上目遣いで可愛いことを告げる。

「エリザベス嬢、楽しみですね」
「ええ。とても楽しみです」

 天使が願うならば、どんなところでも喜んでお供します。私はルンルン気分で笑みを浮かべた。

「じゃあ、さっそく行こう。兄さんたちもまた後で」

 ジャックが手を握り、ぐいぐいと私を引っ張る。
 特別なところとやらに早く案内したいようだ。そんな急かす様子にさえ、むふふである。

 ──両手に花ならぬ、両手に天使。なんて贅沢な状態なのっ!

 最後までルイは心配そうに見ていたが、私はご満悦な笑みをもって返しておいた。ちゃんと、年下王子を見守りますよと瞳で訴えておく。

 王子たちを見送りながら見送られ、双子たちに連れてこられた場所は森の手前であった。
 木々が覆い、葉から木漏れ日が落ちてくる。鳥の鳴き声があちこちに聞こえ、川のせせらぎも少し離れた向こう側で聞こえた。
 そこで、双子は従者やメイドに少し離れた場所に待機するように命じた。

「何かあれば呼ぶから」
「来慣れたところですし、少し自由にさせていただけたら嬉しいです」

 天使な双子に言われては彼らも逆らえないのか、ぎりぎり許せる範囲で距離を持って見守ってくれることになった。
 続いて、双子は何ともきらきらと楽しそうな瞳で私を見つめてくる。

「あの、仲良くなりたいので、エリザベスとお呼びしてもいいでしょうか?」
「本当はルイのようにエリーと呼びたいのですが、まだ出会ったばかりでずうずうしいし、エリザベスと呼びたいです。僕たちのこともジャックとエドガーと呼び捨ててくれてもかまいません」
「う、……」

 眩しい。はわぁっと息が荒くなりそうになり、慌てて口を押さえる。すると、心配げに左右から顔を覗き込まれた。

「どうしたのですか? ダメでしょうか?」

 うるうると見つめられ、エリザベスは邪を振り払うように首を振り慌てて肯定する。さすがに出会ってすぐに王子を呼び捨てにするのは無理だが、呼ばれる分には問題ない。

「もちろん大丈夫です! 好きなように呼んでください」
「そう。嬉しいな。これで僕たちは友達だね。エリザベス、あちらのほうに川があるのでそこまで行きませんか?」
「えっ、でも私たちだけで危なくありませんか?」

 大事な王子たちに何かあってはいけない。万が一取り返しのつかないことでも起こったら大変だ。
 その心配とは反対に、双子は好奇心旺盛であった。

「大丈夫ですよ。彼らもプロです。一定の距離は離れないと思いますので、何かあればすぐ駆けつけてくれます」
「それでしたら、行ってみたいです」
「とっても綺麗な水が流れて、珍しい生き物がたくさんいるんですよ?」
「素敵ですね。とても興味があります。ぜひ、案内してくださると嬉しいです」

 本心からそう告げた。なにせ、私は山小屋を建てるくらい、自然と戯れるのは好きなのだ。使える薬草や変わった植物、その付近の生態系を知るのは生きることに置いて大事である。
 詰まないために吸収できるものはしてできることを増やしておこうの精神は、転生を繰り返す中で変わらない。

 私も好奇心に勝てず彼らに同意して、ワクワクと期待に満ちた眼差しを向けた。
 それに対して、双子が目を見張り、ふ、と大人びた笑いをした。

「楽しくなりそう。ね、エドガー」
「そうだね。ジャック。終わる頃には面白いことになるだろうね」

 そこで双子は顔を見合わせ、くすくすと笑う。

「エリザベス、行こう」
「エリザベス、参りましょう」

 同時に振り返ると今までで一番楽しそうな笑みを浮かべた天使に、私はうきうきしながらついて行く。

 案内された場所はきらきらと川面が輝き、私は下まで見通せる透き通った水に吸い込まれるように見入っていた。

「綺麗ですね」

 ときおり、魚がスイッ、スイッと石の影から出てまた石の影に入って隠れた。川の流れる音と調和するように、あちこちで鳥がさえずる。
 手を伸ばし触ってみると、その水のひんやりした冷たさは気持ち良い。心まで洗い流してくれるような清らかな気分だ。

 川を渡るとその向こうは深い緑が続く。
 荒らされず保護されたそこには、きっと変わった動物や植物を見ることができるに違いない。

 ──とっても、とおっても気になる!

 テレゼア家領地と形状も違うので生物形態も同じではないはずだ。
 ましてや王家領地。絶対、何かしらの出会いがあるに違いない。新種の薬草とかもふもふの可愛い生き物とか見つけてみたい。

 じぃぃぃっと未練がましく深々とした緑を凝らすように見つめながらも、さすがにそこまで勝手はできないだろうと諦めてまた川面を眺める。
 チャプンッとかき回すように手を動かすと、慌てたように魚が泳いでいった。
 それにくすりと笑みを浮かべながら、気持ちがいいなとどこまでも続くように見える川の先へと視線をやる。

 ここは秘密の庭園。この広大さはもうすでに庭園の域を出ていて、そのエリアにあるのかまた違うエリアに来ているのかさえもわからない。
 広々とした敷地内に私は完全にリラックスモードで、美しい景色を堪能した。


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