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第二部 第一章 新たな始まり
歩み寄り②
しおりを挟む普段は気をつけているし、少しばかり緊急だったり面倒くさくなったりしても周囲に気を配ってから行動しているはずなのに、タイミングが悪くそんなところを見られてしまっていた。
十割中五割といったところか。結構な頻度だ。
ユーグはシモンへ向けられるセンサー以外で、私の行動(奇異行動なんて言いたくない)へのセンサーでも付いているのではと思うほどの遭遇率だ。
こちらも嬉しくないが、そんなものを見せられてユーグも嬉しくないだろう。
だが、見てしまった以上、王子の友人である私を少しでも令嬢らしく行動させようと思っているようだ。
──うーん。どうしようかな。
別に何がなんでも隠さなければならないわけではない。
ユーグが言うように、公爵家の子女として好ましくない行動だということを多少は自覚しているので、こそっとしたいだけである。
じっとしていられない性分でもあるので、それらの行動を控えることはできても止める気はない。
ユーグは見たことについて、約束を守ってくれているのか王子たちに言いつけてはいないようだ。
別に王子たちに話してくれても構わないのだけど、主にルイとかすっごく心配されそうだし、忙しく身分のある彼らにそんなことで煩わせるのも申し訳ない。だから、ユーグもすべて報告しないのだろうと思う。
いっそのこと、私はこういうものだとわかってもらうほうが早いのかもしれないとさえ思えてきた。
聞きたいこともあったし、下手に隠すよりはもはや要望になるのだけど、話しておいたほうが今後のためにも良いかもしれない。
ユーグとの距離を考え直すのもいい機会だ。
ユーグは王子のためにどうしても私の行動を把握し正したいようだし、私は行動をしたい。
なら、私のことを知ってもらった上で王子たちへの情報提供はお任せするほうが、自分の行動による周囲への影響力という点で考える負担は減る。
それくらい、王子たちには関心を向けられていることは気づいている。
この一年友人として大事にそして楽しい時間を共有してきた自負はあるので、彼らの中の自分の存在を軽んじてはいない。
私もこの一年で、王子の未来に幸あれと願うくらい彼らの人柄を好ましく思っていた。
だからこそ、王子という立場で律しながら頑張っている彼らに、自分の勝手な行動で負荷はかけたくはなかった。
だけど、私にも譲れないものがあるので動くことはやめない。やめられない。
そこで、緩衝材としてユーグ。
これはいい考えかもしれないと、私はふっと笑みを浮かべた。
それを見たユーグはぴくり眉を跳ね上げた。
聡いユーグのことだ。何か予感めいたものを感じたのかもしれないけれど、今更逃がさないぞと私は口を開いた。
「ノッジ様。ご説明すればよろしいのですね?」
「そうですね。是非」
よし。言質を取った。しっかり巻き込まれてもらおう。
「わかりました。これから話すことに対して絶対他言無用というわけではないですが、基本黙っていただけるという方向でお願いできますか?」
「ええ。ですが、ある程度はルイ様も知っておられるのでしょう?」
「そうですね。ですが、知らないこともあると思うので、やはり基本は黙っていただける方向だと助かります。それほど大した行動はしていないと思うのですが、ルイはとても心配性ですのであまり心配をかけたくないんです」
実際のところどこまで把握しているのかはわからないけれど、ルイに聞かれない限りは話さないでおいたほうがいいだろうなというあれやこれやがある。
「なるほど。こちらとしては、あなたがしでかす前に行動パターンを知れることがまず大事かと思っての判断ですのでそれで構いません」
「私の行動パターン?」
「殿下たちの友人として、粗相をしないようにですよ」
「ああ、そうですよね」
ぶれないユーグである。逆にそこが安心するなと、私は時間を指定する。
まずは、このスカートの下のモノと手に持っているモノをなんとかしなければならない。
「なら、一時間後。応接室を押さえますのでそこに来ていただけますでしょうか? どの部屋かは使いを出します。それに、私自身もお聞きしてたいことがありますので」
「わかりました。では、一時間後に」
「はい」
元気よく返事をすると、じとりと睨まれる。
「逃げないでくださいね」
「……逃げません」
それはこちらのセリフですよ。
話を聞いたら逃げられませんからね。離しませんからね!
「信用なりません。エリザベス嬢の不審な行動を見るたびに、意味不明な説明で何度はぐらかされてきたと思いますか? そろそろあなたの行動に肝を冷やすのは不愉快ですので、この機に徹底的に暴かせていただきますよ」
「暴くだなんて。ただ、ちょっと散歩が好きで趣味があるだけですよ」
「散歩と趣味ですか。一時間後が楽しみです」
そこでユーグが愉快そうににやっと笑った。
不愉快といいながらのその表情に私は目を見張る。だが、すぐに何事もなかったかのようにいつもの冷淡な表情に戻ると踵を返し去って行った。
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