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第二部 第二章 学園七不思議
わかりやすくお願いします①
しおりを挟む青い空。校舎裏の広々とした空間。風に乗って、美男子たちの汗が舞い散りきらりと光る。どこぞの表紙絵みたいな爽やかさ。
無事にユーグと協定を結ぶことに成功した週明け。
ふらりふらりと放課後学園を散歩していると、廊下の隅で女子に囲まれ困っているサミュエルに声をかけたら彼に捕まった。
それからちょうどいいと、ずんずんと連れてこられ今に至る。
目の前には体格にも恵まれた運動能力が高い青年たちが鍛錬しており、その脇で私はぽつりと一人座っていた。
非常に好意的に迎え入れられたため今更去りにくく、名も知らぬ先輩にうやうやしく敷かれたハンカチの上に座り、何よりここを取り仕切るサミュエルに見とけと言われては帰るに帰れない。
先ほどから、カンッ、シュッと剣がぶつかり合い、退け合い、緊迫した空気が流れる。
ここにきて一番の緊張感にドキドキしていたら、目の前でサミュエルがすっと後ろに下がり上からかぶりを振ったはずなのに、いつの間にか横から入り相手の喉元にひたりと剣先を突きつけた。
「降参です」
カシャン、と剣が落ちる音ともに両手を挙げ降伏する相手に、サミュエルは身体をすっと後ろに引いた。
「すごい!」
思わず、感嘆の声を上げる。
訓練を見学するのは初めてのことではないし、練習用の剣で切れることはないと聞いていても、迫力がありすぎて何度見てもヒヤヒヤする。
「まだまだ脇が甘い。目が剣を追いすぎだ」
「わかっているのですが、サミュエル様は誘導が上手いので動きにつられてしまいます」
相手が悔しそうに眉を下げると、サミュエルはにやっと笑う。
「わかってるならいい。頑張ることだな」
「頑張りますよー」
サミュエルがなめらかに剣を収め、それがお開きの合図になった。
相手も落とした剣を拾い、同じように鍛錬していた者や彼らの攻防を見ていた者も片付けを始め、今日の感想や腹が減ったと和気藹々とした空気になった。
そこで私は詰めていた息を吐き出した。
訓練だとわかっていても、ぶつかる音や纏う空気にこちらまでピリピリとして身体が強張っていたようだ。肩を後ろに反り肩甲骨辺りを回して解す。
「……で、いつまでここにいたらいいのかな?」
周囲は帰宅モードで、見終わった今はその流れに乗って帰ってもいいものかどうか。
疑問をぽそりと口にすると、こちらを見たサミュエルがまっすぐに向かってくる。
結構離れた距離にいるはずなのに、聞こえたようなタイミングとその真剣な表情と射抜くように外されない視線にどきっとした。
「エリザベス」
サミュエルが私の正面に立ち影ができる。
それにつられるように視線を上げると、サミュエルは一度きょろっと視線を彷徨わせ意を決したように私を見下ろした。
数秒間見つめ合い、特に何か言うでもなく肩にかかったタオルで汗を拭いていたが、サミュエルはとすとんと私の横に座る。
「お疲れ様です」
ふぅっと息を吐く相手を労うと、手を止め「ああ」とぼんやりと生返事をしたサミュエルは何やら考えるようにじっと前を見ながら口を開く。
「……どうだった?」
「えっ? っと、何がでしょうか?」
首を傾げると、さっきと変わらぬままの姿勢でサミュエルがもう一度同じ言葉を繰り返す。
「だから、どうだった?」
えーと、これは何を聞かれてるのか?
向いている視線の先を考えればさっきまで行われていた訓練の感想……、だろうか。
顔を合わせると感情が瞳や表情からわずかながら読み取れ、三人の王子の中で一番何を考えているのかまだわかりやすい相手だ。
あくまで三王子の中ではというだけで、あとの二人が完璧なほど笑顔を貼り付け読みにくいので基準とするのも変であるが。
根は単じゅ、あっ、素直な人なので、流れ的にそういうことなのだろう。
──それに、見ていろと言われたし。
そういうことだよねと頷き、先ほどのピリピリとした緊張感を思い出し感想を述べる。
「みなさんすごかったです!!」
自分にはできない動き。女性にはない筋肉から繰り出される剣技、しなやかに力強い動きは見ていて気持ちがよく惚れ惚れするものだ。
素直な気持ちをそのまま伝えると、むっと機嫌が悪そうな低い声が降りてくる。
「ふぅん」
ふぅんって何? 聞いといてなんなのよ? と心の中で文句を言いながらもう一度サミュエルのほうを向いてエリザベスは後悔した。
目を見開き瞬間凍結したかのように固まる。
「……っ……」
――って、何その顔?
夕日のオレンジと赤のグラデーションがここまで伸びてうっすらと染まる。
それと相まって燃えるように赤く見えるサミュエルの瞳が私をひたと見据え、じぃっと私に物言いたげに瞳の奥を見つめてくる。
「サミュエル様?」
もうこれ以上は本気で穴が開くと思った瞬間、赤の光彩がぎらりと揺れ、サミュエルはふんと鼻を鳴らすとつまらなさそうにそっぽを向いた。
あれ? らしくないサミュエルの反応に内心で首を傾げた。
今日はいつにも増してご機嫌斜めのようで、どこか苛立ったような気配を纏うサミュエルの端整な横顔を眺める。
その視線に気づいたサミュエルがまたこちらに向いた。
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