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第二部 第二章 学園七不思議
わかりやすくお願いします③
しおりを挟む共通の話題とばかりに姉の名前を出したのは、こちらがびびっているのを察したからだろうか。無骨そうな割に意外と話しやすい。
姉の顔見知りと思えば、私の警戒心は薄くなる。
全く知らない先輩と、どこかで繋がっているとわかる先輩とでは壁一枚分くらい違うものだ。
「そうなんですか。それは知りませんでした」
ほっと緊張を解き微笑むと、ヒューズは穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。エリザベス嬢と話したと知れたら怒られてしまいそうですがね」
そう言ってウインクをしてみせる相手は、姉の度を超えたシスコンも知っているようだ。
一部では有名なので仕方がない。
同じクラスだということで、あれやこれやと迷惑をかけているのだろう。ほんと申し訳ない。
「すみません」
「なぜ謝るのです? こうして話すとマリア嬢があなたを可愛がりたい気持ちはわかりますよ? 堂々としていればいいのです」
「ありがとうございます。先輩の先ほどの剣技、力強くてとても格好良かったです」
「嬉しいですね」
守ってもらえそうな包容力のある安心感とでもいおうか、お兄さんという感じだ。
今も威圧感を与えないようにか、程よい距離感で話してくれている。空気の読める人っていいよね。
「あのっ」
ヒューズ先輩の株を私の中で上げ、姉の様子でも聞いてみようかと話しかけようとしたら、それまで沈黙していたサミュエルが会話を遮る。
「ヒューズ先輩、そろそろ」
「ああ、すみませんでした。では、失礼します。エリザベス嬢もまた」
「えっ、あ、はい。ありがとうございました」
もう一度礼を告げると、にこりと笑みを浮かべてヒューズ先輩は去っていった。
そのたくましい背中をじっと見つめ見送る。夕日を背負ってカッコイイ!!
「気に入ったのか?」
背景も魅力に入れるなんて絵になるよねとぼんやりと眺めていたら、静かに問いかける声にはっとしてサミュエルを見た。
くいっと視線でヒューズ先輩を指し、誰のことを言っているのか理解する。
「ああ、ヒューズ先輩? 頼りになる人ですね。優しいし、理解あるし」
あの姉のことをなんの気負いもなく話題に乗せたこと。
マリアの美貌は男を狂わせ、姉のシスコンは周囲の調和を破壊するとまで言わしめる。
そんな姉と同じクラスで関わりのある相手が、ただの姉妹として自分たちを見ているような発言はとても新鮮だった。
そう考えると、ますます素敵な先輩だ。
うんうんと頷いていたのだが、途中でサミュエルの反応がないことに気づく。様子をうかがうと、面白くなさそうにそっぽを向いていた。
なぜに????
いやいや。今日のサミュエルは何かおかしい。話題を振ってくる割に反応が少なすぎる。
ちらっとこちらを見て、視線が合ったことに目を細めると一言。
「で?」
「で、って?」
もう少し言葉を多めにお願いしますぅぅぅ。
今日はすれ違い気味で、このままでは会話の終わりが見えない。こんなことしていたら、夕日も地平線に落っこちて夜が来てしまいそうだ。
「さっきの話だ」
「……話って、ああ、話すことっていうやつですか。もう少し具体的にお願いします」
身長差のせいで自然と上目遣いになりながら頼むと、サミュエルはじっと静かにエリザベスを見つめはぁっと溜め息を吐き出した。
なんか釈然としない。
こっちの理解力が足りないとばかりの態度だが、そっちの説明不足ですからっ!
私がむっと眉間にしわを寄せると、長い沈黙の後、サミュエルはようやく口を開いた。
「──……週末。ユーグと二人で出かけたらしいな」
淡々と問われ、そのことかと納得。
というか、始めからこう切り出してくれていたらよかったのに、随分遠回りした気がする。
で、週末だけど、あれだけ人がいたのだから、誰かに見られていてもおかしくない。
ルイもいないのに、ユーグと行動したというのが気になったというところだろうか。
サミュエルは堅気気質で、従兄弟とは王座を競う良きライバルであり、血縁としてその存在と関係を大事している。
なにせ、ルイのことを私が誑かしていると怒って屋敷までやってきたほどだ。情に厚い。
今では誤解は解けたものの、それのおかげか私のいるところにはルイありきと思っている節があった。
実際、サミュエルと話すときは大抵ルイがいるので当たらずとも遠からずである。
「はい。野暮用にお付き合いくださいました。ルイには出かけることは話していましたよ?」
だから、ルイを差し置いてという話なのだろうと、従兄弟思いのサミュエルにそれを付け足した。
ユーグとの話し合いで、『実みたいなモノ』のことは王子たちにははっきりするまで黙っていようということになった。
不確定要素で多忙な王子を煩わせるべきではないとの意見の一致である。
ただし、大事であった場合はもちろんのこと、ただの杞憂であった場合にも話すこと。それを約束させられた。
別に意味のないものであったのなら話す必要はないと思ったのだが、そこは話さないと後で大変なことになるとユーグがやけに真剣な顔で告げるので了承した。
いろいろあっての今。
私なりに頭を働かせ一人納得して正解を出した気分でいたのだが、「……そうじゃないっ」とサミュエルはもどかし気に眉を寄せた。
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