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第二部 第二章 学園七不思議
七不思議ではないんですけど①
しおりを挟む先ほどまで晴れやかな青空が広がっていたのに、今はうっすらと薄雲が流れときおり太陽を隠した。隠れては見え、隠れては見えてはまた隠れ。次第に隠れる時間が多くなる。
七不思議を数えるうちに、その数が増えるごとに雲の幅が広がっていく。
「代表的なものはこの辺かな」
抑揚をつけて話し終えたニコラはそう締めくくった。
内容は怖がっていいのか笑っていいのか。
七不思議はやはり七つではなかった。何をもって不思議とするかも話によって違う。
「信憑性もそれぞれって感じなのね」
どこかで聞いたような話であったり、学園特有の話であったり。
不確かだから不思議とするのだろうが、どれもこれも気にはなるが全てを確かめてみたいとは思わなかった。
話をまとめてみると、こんな感じだ。
一.学園にある森。そこに洞窟があり冥界に繋がっているらしい。
一.第三音楽室。真夜中ではなく朝方にポローン、ポローンと悲しげに鳴るピアノの音。覗くと誰もいない。
一.真夜中の体育館。ひたすらボールの音と駆け回る足音が聞こえる。
一.女子トイレと男子トイレの間で逢い引きする幽霊。知らずに声をかけると、女子の幽霊にすごい顔で睨まれる。
一.学園には地下があり、その通路を見つけると戻ってこれない。そこでは人体実験が行われているらしい。
一.綺麗な夕日が見える場所で告白し成功すると永遠の愛を勝ち得る。ただし、どの場所が本物か、破滅の場所かは誰もわからない。
一.応接間の天井に書かれた有名画家の壁画。そのなかの天使の一人が選り好みするらしく、嫌いな客に唾を吐きつける。
一.天使の唾を禿げた頭にぬりつけると、あら不思議。髪の毛ふっさふさ~。
一.男子寮のとある一室。そこには覗き穴があり、女子寮が見える。
一.女子寮のとある一室。同じく覗き穴があり、男子寮が見える。
一.教師寮のとある一室。同じく覗き穴があり、手を差し出すと触ることができる。何を?
一.学園にしか咲かない花があり、それを見つけると富と栄光を授かる。
一.学園の結界について。それを破壊することができたら、この世を支配できる力を持つことができる。
他もろもろ。
学園のある木の下に遺体が埋まっているとか。永遠に枯れない花があるだとか。そういったものがごろごろあるらしい。
もはや七不思議ではないだろう。いくつあれば気がすむのか。
これを聞くからに、『実みたいなモノ』にまつわることはなさそうだ。少しでも手がかりがあればと思ったが残念だ。
実みたいなモノに問題がなかった場合、不思議の一つとしてカウントしてもいいなんてレベルではない。これ以上増やすのは忍びないくらいだ。
私はニコラに聞いたのも含め五つしか知らなかった。
冥界やら幽霊やら、ピアノは定番である。少し思っていたのと方向性は違うのもあったがそれっぽい。
あと、来客に唾を吐く天使は本当なのだそうだ。魔法が関係していそうだが、そもそも絵が選り好みする魔法とはどんなものなのか。
応接間に入って唾を吐かれたりしたらショックを受けそうなので行きたくないが、もし育毛成分が含まれているなら少し気になる。
吐かれた人、誰かくれないかな?
育毛の真偽はわからないが、唾を吐きつける天使は学園の七不思議の一つとしては確かそうだ。
「私、覗き穴の話を聞いたことがあります」
「ええ。私もです」
一人がそう言い出すと、口々に私もと話が続く。
「確か、女子寮の三階の左角の部屋ですよね? そこを使っている子がたまに壁がぐるぐると回って見える時があるって言ってました。さすがに男子寮が見えるとかではないようですが」
「そもそも互いの寮のどこが見えるのでしょうか? 教師寮だけ触れるって、本当に何をって感じですけど。その生徒もそんな噂がある部屋で大変ですね」
「その子は気のせいだということにしているようです。七不思議を知っているからそう見えるだけだろうって言ってましたけど、違和感は感じるみたいです」
「すごいですね。ここは魔法学園ですものね。そういった何かがあってもおかしくないです」
最後にサラがしみじみと校舎のほうを見ながら呟き、その場にいた全員がゆっくりと頷いた。
魔法は万能ではない。
だからこそ、たまに意図しないことができたりもする。
その魔法が頻繁に使われる場所で、しかも未熟な者が多い中で連鎖反応を起こす可能性もあるだろうし、それがこの学園の七不思議の多さの理由だろう。
偶然の産物がないとは言い切れない。
きゃわきゃわと興奮する女子たち。
それらを聞きながら、私はのほほんと微笑ましく彼女らを眺めていた。
こういった噂は、真実であっても嘘であってもどっちでもいいのだろう。
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