詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第二章 学園七不思議

七不思議ではないんですけど②

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 ただ、それらを共有し盛り上がるのが楽しいのだ。
 自分もその輪にいることがすごく楽しい。見ているだけで、聞いているだけで、ふわふわと温かい気持ちになる。

 それと同時に、少しでも手がかりを見逃さないようにどこかで冷静に分析している自分。
 乙女ゲームならこの話に仕込みが入っていてもおかしくない。ただの余興かもしれないが、その可能性も捨てきれない。

 学生として、日々を奮闘しながらも楽しんでいる自覚はあった。
 がむしゃらに詰まないでおこうとした今までと違って、何かと充実していて楽しい。
 学友に囲まれ、王子たちと知り合い彼らのことを知った今世こそ、その生を全うしたいという気持ちが強くなる。

 大事なものが増えていく。
 築き上げた関係は生まれ変わっても同じものとはならないからこそ、彼女たちの声が愛おしくて私は頬を緩めた。

 それをニコラが眩しそうに眺めている。
 彼もまた七不思議を語るだけ語って、女性陣の話題に耳を傾けているだけだった。
 まだ、あれこれと花が咲く。

「私の友人はトイレの霊の修羅場を見たと言ってました」
「修羅場ですか?」
「ええ。その噂のトイレは別棟のあまり使われることのない一階のトイレなんですけど、そこに二階のトイレの女子幽霊が乱入して男子幽霊を取り合いしているとか」
「「「「「…………」」」」」

 なんとも言えない空気に包まれる。
 なんてリアルな。本当なら幽霊の世界も大変だ。

 そして、同時にちらりとニコラを見る。よくこの男は揉めないなと皆思うことは一緒のようだ。
 本人はわかっているのかわかっていないのか、相変わらず二ヘラっと笑い、私と視線が合うとさらに笑みを濃くした。
 そして一言。

「モテモテ幽霊だねぇ」
「「「「「…………」」」」」

 女性陣はどう反応していいのかわからない。
 幽霊の話とリアルな人の話を混ぜ合わせていいものか。そもそも噂は噂の域を出ておらず、一階と二階の幽霊の区別は誰がしたのか。

 さすが七不思議。
 とりあえず、元の話に戻して触れてみる。

「……ああ~、もしかしたら睨まれる相手は女子が多かったりしそうですね」
「そうかもしれませんね」

 睨む、修羅場。女子幽霊の怨念という色が強そうだ。
 そう考えると、あれこれ尾ひれがついていそうだがトイレの幽霊の話も一つとしてカウントしてよさそうだ。
 一通り女性陣の話を聞いていたニコラが、頃合いとばかりに新たな話を投げる。

「そういえば七不思議とは違うけど、一年生の、特に女子の間で流行っている噂があるようだよぉ」
「まだ、学園生活間もないというのにもうですか?」

 ドリアーヌが、まあ呆れたとばかりに声を上げる。
 確かに、噂にかまけるにはまだ日が浅い。
 もっと学園のことに集中している時期だろうとは思うが、一年と聞いてソフィアのこともあり気になった。

「うん。それが面白い話なんだよねぇ。どうも葉っぱをつけた女生徒が出没するみたいだ」
「出没ってクマみたいですが、葉っぱをつけた女性って……」

 ミアが困惑気味に首を傾げると、周囲も同じく首を傾げる。

「葉っぱ」
「葉っぱ、ですか……」
「葉っぱ?」
「つけるってどこにですか?」

 最後に冷静にサラの指摘が入る。

 ――葉っぱ。

 あまり掘り下げてほしくない話題だ。
 だが、流れ的にすっかり彼女たちは興味を示している。

「仮面のように、ということらしいよぉ。それで正体を隠していたみたいだね。面白いねぇ」
「……面白いでしょうか? それ本当にあった話ですか? そんな変わったものが出没しているなら私たちのところにも噂が回っていてもおかしくなさそうですが」
「そうですよね」
「聞いたことはありません」

 訝しがるクラスメイトの言葉に、私も同意だと小さく頷いた。
 内心は少しヒヤヒヤしているが、ここは絶対顔に出すまい。

 ──う~ん。葉っぱねえ。

 仮面と聞いて心臓がドキッと嫌な音を立てたが、出没も何も私は一度きりなのでその噂は自分のことではない、はずだ。
 自分でやっといてあれだが、もう二度とやらない。

 私の場合は状況的にやむを得ずだったし、好んで葉っぱつけるなんて奇特な人もいるもんだ。
 そう思っていたのだが、続くニコラの言葉に今度こそ表情を崩しそうになった。

「見たという人に直接話を聞いたから間違いないよぉ。その人ははっきり葉っぱレディと名乗ったそうだよ」
「葉っぱレディですか?」

 ドリアーヌが微妙な顔を作った。
 想像しようとして、失敗して結局意味がわからなかったというような顔だ。
 顔を葉っぱで隠すという発想がそもそもないのだろう。

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