111 / 185
第二部 第二章 学園七不思議
七不思議ではないんですけど②
しおりを挟むただ、それらを共有し盛り上がるのが楽しいのだ。
自分もその輪にいることがすごく楽しい。見ているだけで、聞いているだけで、ふわふわと温かい気持ちになる。
それと同時に、少しでも手がかりを見逃さないようにどこかで冷静に分析している自分。
乙女ゲームならこの話に仕込みが入っていてもおかしくない。ただの余興かもしれないが、その可能性も捨てきれない。
学生として、日々を奮闘しながらも楽しんでいる自覚はあった。
がむしゃらに詰まないでおこうとした今までと違って、何かと充実していて楽しい。
学友に囲まれ、王子たちと知り合い彼らのことを知った今世こそ、その生を全うしたいという気持ちが強くなる。
大事なものが増えていく。
築き上げた関係は生まれ変わっても同じものとはならないからこそ、彼女たちの声が愛おしくて私は頬を緩めた。
それをニコラが眩しそうに眺めている。
彼もまた七不思議を語るだけ語って、女性陣の話題に耳を傾けているだけだった。
まだ、あれこれと花が咲く。
「私の友人はトイレの霊の修羅場を見たと言ってました」
「修羅場ですか?」
「ええ。その噂のトイレは別棟のあまり使われることのない一階のトイレなんですけど、そこに二階のトイレの女子幽霊が乱入して男子幽霊を取り合いしているとか」
「「「「「…………」」」」」
なんとも言えない空気に包まれる。
なんてリアルな。本当なら幽霊の世界も大変だ。
そして、同時にちらりとニコラを見る。よくこの男は揉めないなと皆思うことは一緒のようだ。
本人はわかっているのかわかっていないのか、相変わらず二ヘラっと笑い、私と視線が合うとさらに笑みを濃くした。
そして一言。
「モテモテ幽霊だねぇ」
「「「「「…………」」」」」
女性陣はどう反応していいのかわからない。
幽霊の話とリアルな人の話を混ぜ合わせていいものか。そもそも噂は噂の域を出ておらず、一階と二階の幽霊の区別は誰がしたのか。
さすが七不思議。
とりあえず、元の話に戻して触れてみる。
「……ああ~、もしかしたら睨まれる相手は女子が多かったりしそうですね」
「そうかもしれませんね」
睨む、修羅場。女子幽霊の怨念という色が強そうだ。
そう考えると、あれこれ尾ひれがついていそうだがトイレの幽霊の話も一つとしてカウントしてよさそうだ。
一通り女性陣の話を聞いていたニコラが、頃合いとばかりに新たな話を投げる。
「そういえば七不思議とは違うけど、一年生の、特に女子の間で流行っている噂があるようだよぉ」
「まだ、学園生活間もないというのにもうですか?」
ドリアーヌが、まあ呆れたとばかりに声を上げる。
確かに、噂にかまけるにはまだ日が浅い。
もっと学園のことに集中している時期だろうとは思うが、一年と聞いてソフィアのこともあり気になった。
「うん。それが面白い話なんだよねぇ。どうも葉っぱをつけた女生徒が出没するみたいだ」
「出没ってクマみたいですが、葉っぱをつけた女性って……」
ミアが困惑気味に首を傾げると、周囲も同じく首を傾げる。
「葉っぱ」
「葉っぱ、ですか……」
「葉っぱ?」
「つけるってどこにですか?」
最後に冷静にサラの指摘が入る。
――葉っぱ。
あまり掘り下げてほしくない話題だ。
だが、流れ的にすっかり彼女たちは興味を示している。
「仮面のように、ということらしいよぉ。それで正体を隠していたみたいだね。面白いねぇ」
「……面白いでしょうか? それ本当にあった話ですか? そんな変わったものが出没しているなら私たちのところにも噂が回っていてもおかしくなさそうですが」
「そうですよね」
「聞いたことはありません」
訝しがるクラスメイトの言葉に、私も同意だと小さく頷いた。
内心は少しヒヤヒヤしているが、ここは絶対顔に出すまい。
──う~ん。葉っぱねえ。
仮面と聞いて心臓がドキッと嫌な音を立てたが、出没も何も私は一度きりなのでその噂は自分のことではない、はずだ。
自分でやっといてあれだが、もう二度とやらない。
私の場合は状況的にやむを得ずだったし、好んで葉っぱつけるなんて奇特な人もいるもんだ。
そう思っていたのだが、続くニコラの言葉に今度こそ表情を崩しそうになった。
「見たという人に直接話を聞いたから間違いないよぉ。その人ははっきり葉っぱレディと名乗ったそうだよ」
「葉っぱレディですか?」
ドリアーヌが微妙な顔を作った。
想像しようとして、失敗して結局意味がわからなかったというような顔だ。
顔を葉っぱで隠すという発想がそもそもないのだろう。
80
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる