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第二部 第三章 記憶と夢と過去
この世界で②
しおりを挟む「とにかく、王子たちは半端ないってことはわかったわ」
関わらないように奮闘してきたことは、かなり無駄なことだとこれではっきりした。
なんてたって、乙女が躍起となって主人公とくっつけようとする攻略対象者たちである。
これからは関わっていきながら、どうやってこの先を乗り越えるかを考えるしかない。
どう行動すれば、無事過ごしていけるのか?
どうすれば、今世を満喫できるのか?
ゲームの強制力とは別に、大事なものを気持ちに正直に大事に過ごしていくにはどうすればいいのか?
とにかく、王子たちにはゲームがとか考えるのはよそう。
そして、こうなったらソフィアを避けるのも無理なのだろうなと思うので自ら避けることは止めようと決める。なるようになれ、だ。
あれこれ思考しても、避けていても関わるのなら、好きなように行動して前向きにいこう。
そのほうが、何かあったときに後悔は少ないはずだ。
まず目前の十六歳超え。マリア対策である。
このまま何ごともなく誕生日を迎えられるように、あと一か月ちょっと気を抜かず定期的に姉の様子を見定めつつ、ニコラにも姉の動向をもう少し詳しく報告してもらうことが最優先。
そこで私は室内を見回した。
シミ一つない絨毯がひかれ、高級木材を使用し美しい柄が彫られた家具類。
寝る以外で主によくいる机の周囲には、私が持ち込んだ薬剤関係のものや書物が並び実用的に配置され、お年頃の貴族子女らしくない。
ペイズリーに嘆かれるが、それでも姉を筆頭に持ち込まれる装飾類はきらきらしいし、可愛い小物も勝手に増えていくので十分だ。
興味がないわけではないが、必要とは思わない。一生懸命可愛くしてくれようとするペイズリーには申し訳ないけれどお任せしっぱなしである。
逆に言うと、そういったことを含め周囲のサポートがあるから、今世は薬草関係や全商連との繋がりで商品開発に集中もできて充実している。
貴族子女としての当たり前を周囲が整えてくれることで日常が回り、それにかかる時間で費やした労力、自分で作ったものが欲され、納得してもらえるという承認欲求が満たされる。
それは訳のわからない転生を繰り返し、記憶を持ち、そしてゲームの世界と酷似していることに気づいた私にとって非常に大事なことであった。
変わった人も多いが、いろんな人と知り合えているし、暇をすることがない。なので、今日みたいにいろいろあるけれど今世は日常を満喫している。
「頑張ってきたことすべてが台無しではないよね」
築いてきたものが、繋がっているという事実。
さっきまでのそわそわと落ち着きのない熱は引き、小さな小さなそれがこの室内を、学園を、この国を、世界を回りゆるやかに自分の中へと戻って来る。
ぐるりと回り質量が増え、己で導き出した「嬉しい」という気持ちが今、ストンと落ちた。
何度も何度も考え、何度も何度も争った。
時に悩み、落ち込み、奮闘し、そのすべてが結局同じように流されていくことに虚しさを覚えもした。
そのたびに気持ちを立て直してはきたけれど、頑張ってはきたけれど、疲れてもいた。
前向きにと思わなければ、やってられない。
絶対乗り越えてやるのだと気持ちを奮い立たせていないと、自分の存在というものがわからなくなる。
エリザベス・テレゼアがこの世界にとって何者であるのか、何度も転生させられているということは何かの役目があるのかもしれない。
それはエリザベス・テレゼアに与えられたものか、私に与えられたものかわからない。
けれど、今まで歩んできたのはゲームの個性ではなく自分だと胸を張って言える。
ここに存在するのは、私、エリザベス・テレゼア。
これから感じることも、すべて自分のもの。
「私はエリザベス・テレゼア。公爵家の次女。姉に溺愛されて転生を繰り返し、乙女ゲームの主人公らしいとわかったけれど関係ない。私は私としての気持ちを大事にする。大事にしたい人、ものや繋がりを転生なんかで途絶えさえない。だから、もう逃げないわ」
自分に言い聞かせるように声を上げる。
宣言した後で、フラグはやっぱり嫌だとちらりと思うが、メインキャラだからとか関係なく、この世界を、今世を自由に生きていきたい。
この世界の主軸だろう王子たちに出会い、それぞれと仲が深まることでこの世界で生きるということを実感した。
遠い周り道をしてようやく逃げる奮闘ではなく戦う奮闘、そして自らの人生を歩むことを心から望み、私はえいえいおーと腕を上げた。
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