詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第三章 記憶と夢と過去

side王子ズ 異変と密談②

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 学業と公務で多忙を極める自分たちは、自由になる時間が少なく、ルイは学園に入ってから精力的に魔力強化に取り組み、その関連での勉学に忙しくなっていた。
 そのため、父の仕事関連の仕事も回されることもあるとぼやいていたが、それも仕方なしだと励んでいる。

 サミュエルは身体強化、剣術と、このまま騎士コースに向かう勢いで、そちらの掌握にかかっていた。
 シモンも政治的な人間関係を精査中であり、煩わしいことが増えてはいるが、今後のために忙しい合間を縫って人脈を広げているところである。

「私も聞けるものなら聞いておきたい。どんな情報であっても構わない。無駄か無駄ではないかは聞かないとわからないからね。今は少しでも多くの情報を知りたい」

 昼にその話をしていずれと言っていたのに、その夜に再燃した話題に苦笑しながら、シモンは斜め後ろに立つユーグを見た。
 彼は無表情に近い顔で佇んでいたが、シモンの視線に気づくとわずかに苦笑し頷いた。

「はい。話すのは構わないのですが……」
「どうしたの?」
「いえ。別段内緒にしているわけでもないのですが、皆様の視線があまりにも突き刺さるようで」

 静かに周囲に視線を走らせ、ユーグは眉間に皺を寄せ息をつくと続けた。
  
「隠しているわけではなかったのですが、もともとは忙しい王子たちを煩わせるのは申し訳ないけど気になると私のところへ話が回ってきたので」
「そうなんだ?」
「はい。それもたまたま話の流れでそうなっただけですので。それで中身なのですがは、エリザベス嬢が学園でときおり拾っていた『実みたいなモノ』についてです」
「実みたいな?」

 ルイは曖昧な表現に首を傾げる。みたいな、とは?

「そうです。実際、実ではないということです。草花のように成長があっただろう痕跡はある『実』に似せた何かの可能性をエリザベス嬢は気にしておられました。はっきりしないモノがこの学園にあること自体が問題であり、何もなければいいと独自に調べたけれどわからないので王子に近しい私にとのことでした。つまり、王族を守るべき私側で調べてほしいということです。問題があればもちろんのことなくても私の判断で殿下たちへの報告は任せるとおっしゃってました」

 人が絡むと思慮深くなるエリザベスらしい考えだ。
 そして、ユーグの回りくどい話は個別で仲良くしていたわけではないので安心してくださいと言うためだろう。
 自分を含め、エリザベスは自分たちにとって多少の違いはあれど大事な存在であることは共通の認識である。

 ルイは自分だけのレディとして隠しておくことができなかったことを残念に思うと同時に、どうしても隠れようとしてしまうエリザベスの輝く魂に賛同するものが増えて嬉しいという複雑な感情を持て余していた。
 自分だけでは、エリザベスを留めておくことができない焦りがあった。
 ふと目を離した瞬間にどこかへ去っていきそうだと、手を伸ばして掴んでおきたいと衝動に駆られたことは数え切れないほどだ。

 遠くを見つめる彼女が、本当のところ何をどう思っているのかわからない。
 教えてほしい。だけど、知るだけでは解決しないのだろうこともわかっていた。
 簡単に話せるなら、話せることで解決していることなら、エリザベスは自分に話してくれていただろう。それだけの時間を過ごしてきた自負はある。

 だけど、結局学園に入る前も、入っても教えてもらえなかった。
 無理に聞くことはいつでもできた。だけど、それはしたくなかった。
 自分の欲求を優先させて、エリザベスのあり方を歪めたくなかった。彼女が彼女らしいこと、それがルイにとって絶対なのだ。

 教えてもらえない。不安をわけてもらえない
 それがたとえエリザベスだけの問題で自分のあり方に何も関係していなくても、寂しいことは寂しくて、いつかそれらにエリザベスがさらわれてしまうような不安は付きまとう。

 そう感じるたびに、今の自分では力不足だと痛感する。
 彼女を繋ぎ止めておくには、憂いを払うにはと何度も自問自答した結果、だったらここから逃げたくなくなるようにすればいい、そうすると決意した。

 彼女にとって居心地いいものを。
 すぐそこにある先よりも、遠い未来を穏やかにと告げる彼女に、今も、一日先も、一か月先も、一年先も、十年先も等しく平等にあると気づいてほしい。

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