詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第四章 忍び寄る影

七不思議の真相と監禁②

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「聖女と名乗ったことはありませんよ。そもそも聖女とは癒やしの存在なのよ。ならば、我が愛しのエリーこそが聖女です。見て、袋にくるまれても可愛らしい。あら、可愛い。エリーったらぷるぷる震えて。赤ちゃんのころを思い出すわね。ほっぺも心なしか色づいて食べごろかしら? 本当に食べちゃいたいくらい可愛いわぁ」
「マリア姉様。そろそろその口閉じましょう」

 どこまでも変わらない姉に私はげんなりと告げると、一本一本均等に並べられた長い睫毛をぱちぱちとさせ、ふふりとマリアは笑う。

「まあ、エリーったら。目の前にエリーがいるのにどうして閉じないといけないの? 口はお話をするためにあるのです。私はエリーと貴重な体験ができて喜んでいるのですよ」
「貴重ですか? これが? 監禁されているのですよ?」

 メンタル強すぎない?

「ええ。ですが、ここは学園内ですからね。テレゼア公爵家の娘を拉致していいことありませんから、そのうち解放されるか、助けが来るでしょう。だったら、それまでエリーと楽しまなくては」
「………………っ、私はときどきお姉さまのその変な自信についていけません」
「あらっ。本当のことしか言っていませんからね。私たちには動いてくれる家臣や殿方がたくさんいますからね。その方々を信頼して待つだけです。ふふっ、誰が一番早いかしら? それに、運ばれているときに漏れ聞いた犯人の目的は私ではなくてエリーだそうじゃない。それならばなおさら放っておけないし、理由を聞かなければいけません」
「もしかして、あえて捕まったと?」

 だとすると、この落ち着きの理由は頷けるけれど、理解はできません。……マリアってこんなにしたたかだったかな? 
 んんっ? と内心首を傾げていると、姉は優美ににっこり笑みを浮かべた。
 顔だけひょっこりミノムシ状態というのがシュールであるが、こんな時でも美しさは損なわれない。

「もちろんですよ。今逃げてもまたエリーを狙ってくる可能性があるならば、一緒に捕まったほうがマシでしょう? エリーが一人でこのような状況に陥ることにならなくてすむし、何より私はエリーと十六歳を一緒に超えると決めているんですもの」
「そこにこだわる必要がありますか? そもそも、どうして七不思議の確認をしにいこうと?」
「それは周囲の方々に教えていただいたからです。その上で、エリーの十五歳の最後に思い出として廻るのは良い思い出になると考えたの。なので、詳しい者にオススメスポットをご提示いただきましたからね」

 誰だ、そんな案を出した人は!?
 そして、いったい取り巻きたちと普段どんな話をしているのか……。
 そのための部屋への侵入する鍵だとか、確保済みの用意周到さ。きっと、取り巻きたちがいろいろ力を使ったのだろう。

 姉に一緒に誕生日を迎えたいと誘われ、姉のそばなら十六歳まで残り数時間とはいえ何かあれば対処できて、姉の心を満たせるし一番の安全策なのではないかと了承した。
 その内容が、まさか肝試し込みの七不思議巡りだとは考えもしなかった。

 ただ、七不思議の話を聞いたばかりで関心があった。
 最近この世界の魔法について思うことがあったので、どういった仕組みなのか現物を見るのは参考になるし最終的に面白そうだと思ったので、姉ばかり責められない。

「……妹思いの姉様で私はとても幸せです。マリア姉様、巻き込んでごめんなさい」

 しかも、今回の監禁は私が目当てのようなので、私が巻き込んだ。
 あまりにも姉が姉らしくそばにいたので、姉たちの様子に気持ちが緩んでしまったがそこのところを失念していた。

「違うわよ。私たちは被害者なのですからね。エリーが謝ることはないわ。それよりも心当たりはない?」
「……大きな原因は特に何も。個人的にだと殿下たちと仲が良いからとか、お家騒動があったりなかったりするのかなくらい? それでも、我が家は公爵家。手を出したらどうなるかわかっていて、ここまでするには弱い理由だと思いますし中途半端ですね」

 知らない間にというのはままあることだ。
 だけど、拉致してまでの恨みを買った記憶はない。

「そうなのよね。幽霊さんはここがどこかわかって? 感覚的には下に降りた気がするのですが」
「幽霊さんなんて他人行儀はやめて。私はアントワネット。アンって呼んで。ここは地下だよ」
「では、アン、とそう呼ばせてもらいます。学園の地図上には地下なんて存在しないはずですが、やはり隠された学園の地下があるということですね」
「やっぱりそうなるんだ。なら、ここは七不思議では人体実験されているといった噂がつきまとっていた曰くありの場所ってこと?」

 姉の言葉を引き継ぎ、私は可能な範囲で首を回し周囲をうかがった。
 冷たい石造りの室内には机も椅子も何もない。上部に小さな窓があるが鉄格子が嵌められ、今は夜だから光は届かない。
 地面に置かれたライトの役割を果たす魔道具の光が自分たちを照らしてくれるので、相手の顔や部屋の中がわかるがそれ以上の情報はなかった。

 もしここが例の場所だったら、地下に繋がる通路を見つけると戻ってこれないという話だよね?
 人体実験道具は置かれてないけどやばくない?
 七不思議の真相探りに来て、まさか曰くありの場所に拉致られるとかどんなブラックジョークだ。

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