詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第四章 忍び寄る影

次々と③

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 だから、高みという言葉にあんなに怒ったのだ。
 生まれ持った貴族という身分と魔力で、悠々自適に生活している私たちに言われたくないと。

 綿密に計画してきたことを、貴族子女の趣味で拾われ簡単になかったことにされたことにも、理不尽さを覚えたのだろう。
 男からしたら高みにいる者に、そんなことを言われたくなかったのだろう。

 軽率だった。
 己の境遇が恵まれていることは自覚しているし、困っている人がこの国にたくさんいることも知っている。環境に嘆き、奮起したいと望んでいる人も多いだろう。
 少しでも多くの人が笑っていられる世界になったらとは思うけれど、それは夢物語にすぎない。すべてに目は行き届かないし、手も届かない。

 他国より安定し平和だと言っても、国が、貴族がすべてをわかっているわけではない。できるわけではない。権力だけを振りかざす者もいるのも事実。
 そのため、私はこの世界に過度に期待もしないが、嘆きもしない。
 身近な家族や、領地の人たちからと手を伸ばせるところから大切にしている。抱えられるもの以上は、結局最後まで面倒は見きれない。中途半端に手を出すことはできない。

 だから、男がどれだけ辛酸をなめさせられていたとしても同情も同調もしない。
 世の中、どれだけ平等をうたっても不平等なことは当たり前なのだ。上を見ればどこまでも、下を見てもどこまでも。
 自分との違いに妬み、憐れんでいく生き物はどこまでいっても平等にはなれない。

 この闇の力も不平等の一部。ただの力。ただし、巨大すぎる、がつくけれど、決して太刀打ちできないものではないはずだ。
 そう思うと、少し息を吸うのが楽になった。

 私はまだ生きたい。この・・世界で。
 それぞれ個性的な王子たちといるのも結構楽しいし、溺愛が増している姉は扱いにくいがそれはそれで退屈しないし、以前よりずっとこの世界が好きだ。

 王子たち、姉や家族、そして使用人たち、知り合った人々、学園の友だちを思い浮かべると、真っ暗だった暗闇にぽっと光が灯った。
 途端、意識が浮上する。
 落ちていたつもりはなかったが、意識の糸が切れていたようだ。

「はっ、はぁ、はぁ──」

 それと同時に息も止まっていたようで、あまりにも苦しくて不揃いな息を吐き出す。

「エリー!!!!!」

 マリアの泣きそうな声に、必死で酸素を取り入れながら自分がやばかったことを知る。

「はぁ、はぁ、はーっ、ん、もう、だいじょうぶです」

 こちらの様子を見ていたらしいも男も肩で息をしている。
 打ち勝ったとは言えないかもしれないが、悔しそうな顔をしていることから、私が持つらしい光のおかげで戻ってこれたのかもしれない。

「ちょっと、エリーに何かするなんて許しませんよ」
「許さない、ね。本当、どこまでも貴族は傲慢だ。ムカつく」

 男は息を整え姉に言い放つと、燃えるような目で私を睨みつけた。
 今までは、環境だとか不満だとか、男の持つ事情込みで貴族の、計画を邪魔した一人として私を見ていたが、今は私個人にひどく怒っているようだった。

「やはり、あの方のいう通りだった。どこまでも邪魔をする。ここで殺しておかないと」

 あの方?

「おいっ。殺しはやめてくれよ」
「うるさいっ」
「ああー、ちょっと落ち着け。落ち着いてください。まだ、すべてが失敗したわけではない。ここは出直すべきだ。妹に変わった能力があるのがわかったし、今わかっていて良かったと思えることもあるだろうし。思ったより時間食ったから、そろそろ撤退しないと、」

 細身の男に睨まれて、大きい男は敬語に言い変え説得を始めだしたその時、

 ドーン バラバラバラッ
 ガコッ
 バンッ

 ドシンッ

 様々な破壊音とともに天井が崩れ、横壁が壊され、扉が勢いよく倒れ落ち、最後は振動とともに降ってきた。

 ──今度は何?

 あまりの騒音に、どこを見ていいのかわからずとりあえず現状把握だと、ころりと転がり天井を見上げた。
 ストンッ、と見慣れた人物が飛び込んでくる。
 部屋の外では、やはり男の仲間がいたようで数人が取り押さえられている声がする。取り押さえている者は、きっとテレゼア家の隠密部隊。姉や私は話を伸ばしてこれを待っていた。
 だが、彼らが来ることまでは想定外。

「「「エリーっ!?」」」

 一斉に私を呼ぶ声。もとからそう呼んでいるルイと、最近愛称呼びをするシモンにサミュエル。

「大丈夫? 何もされてない?」
「怪我はしてませんか?」
「無事か?」

 続いて、どすんと言う音とともに先ほどより大きな範囲で壁が崩れ、見たこともない二匹の大きな生物の上に乗ったジャックとエドガーが現れる。

「「エリザベスっ」」
「わー、本当にいたっ」
「本当に? えー、どうなってるの」

 王子が五人も揃い、神々しいほどの光を放つ動物もいて一気に賑やかになった。視覚的にも。

 助けに来てくれた。それはすごく嬉しい。
 だけど、一国の王子がこんなところに勢ぞろいっていいのかな?
 その大きすぎる動物は?

 私はあまりに驚きすぎて口を半開きのまま、彼らをぽかーんと見つめた。


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