詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第五章 これから

意識②

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 ルイってば、急かす気はないと男らしく宣言してくれたけど、手加減してくれる気はないみたいだ。
 それだけ今までルイをヤキモキさせていたと思えば、ここは甘んじて受け入れ、……られるかぁー!!!!

 やっぱり、乙女ゲームのメインヒーロー。顔がいい。王子というだけでスペック高い。
 返事は急かされなかったが、そんな相手に好きだと言われた事実は変わらず意識しないわけにはいかない。

「そうみたいだね。このまま意識してね」
「……なんか」
「なんか何?」
「ルイが男の人みたいだ……」

 ずるいって思った。そう思ったけど、どうずるいのかわからなくて、説明出来る気がしなくて、結局、もう一つ思ったことを口にする。
 なんだろう、胸がきゅっとする。やっぱりなんかずるい。

「さっき異性だってわかっていたって言ったのに」
「でも、ちょっと」

 もごもごと口を動かして、言葉が見つからずきゅっと口を尖らせると、親指の腹で唇をするりと撫でられた。最後、端のほうをくいっと押される。
 なんだ? なんだ?
 ルイのやることなすこと、なんか意味深で一向に心休まらない。

「ちょっと、何?」
「胸の奥がなんか苦しい、みたいな」
「へぇー」
「あと、ルイがきらきらして見える」
「…………」
「何か変わったとかではないのに、なんでだろう」

 悔しくて、このもどかしさを解明したくて、じぃーと、むしろ間近だからじろじろとルイの顔を眺める。
 カーテンの隙間から漏れ入る光を通すだけで不思議な色合いを醸し出す緑。まるでおとぎ話の国の森の妖精ではないかというくらい魅力的な髪色に瞳。
 すっと通った鼻筋に、整っているのに柔らかなイメージを持たせる二重の瞼。

 うん。やっぱり美形さんだ。
 まじまじと見つめた結論にうんうんと頷いて、ならこの気持ちはなんなんだと首を傾げていると、ルイが勘弁してとコツンと額をぶつけてきた。

「エリー。ちょっと黙ろうか」
「えっ、急に何で?」
「だって、かわいすぎるんだ」
「……どこが?」

 もごもごしているだけでそんなこと言われても。むしろ、はっきりしたらって苛立つところでは?
 ぐりぐりとこれでもかってくらいに額を擦り付けると、ルイはにっこりと微笑んだ。
 やっと離してくれた。うっ、おでこが痛い。やっぱり怒ってる?

「痛いんだけど」
「エリーが悪いんだよ」

 少し怒ったような笑顔で、その瞳の奥に熱のようなものがくすぶっているのが見え隠れする。
 さっきの甘さもあるのだけど、ハチミツを燃やして焦がしたみたいな甘いけど危険な空気を醸し出され、その視線とじっと合わせていられずわずかに右に視線を逸らした。

 すると、右目の眦を親指でつ、つ、つっと外に向かって意味深に撫でられ、はぁっとつらそうに溜め息をつかれる。
 触れられた場所が妙に熱い。

「意識してもらえるって思ってなかったからね。それだけで僕としては朗報なのに、その反応どうしてくれようか」

 ――どうして、くれようか?

 思わず、頬が引きつる。すっごい嫌な予感がする。

 やっぱりルイご乱心?
 昨夜のことまだ怒ってる?

「言っておくけど、怒ってるとかではないからね」
「あっ、はい」

 すっかり思考を読まれている。
 何かを思い出すように、ルイがふと微笑んだ。閉められた窓を見て、小さく頷く。

「うーん。ずっとこうしてイチャイチャしてたいけど、時間もないしね。そろそろ話をしようか? 二人きりってなかなかないし、今度、いつそういった話ができるかわからないし、少しでも早く知っておきたいから」
「……そうだね」

 イチャイチャ? まあ、この状態を考えたら、でも、うーん……。もう、深くは考えるまい。
 ルイが言うように、私たちには優先すべき大事な話がある。

 さっきのやり取りで、だいぶ緊張が解れている
 その分、また考えることが増えたけれど、やっぱりルイといると落ち着くなと、私は眦を下げてルイに向かってふふっと笑った。


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