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第二部 第五章 これから
sideルイ 意識②
しおりを挟むルイはいまだにエリザベスに触れることを止めれない己の行動と、話を優先すべきだという思考のちぐはぐさを感じながら、結局はエリザベスが照れているだけで嫌がっていないから触れるくらいいいかと自分を許す。
守りたい気持ちと、誰よりも近くにエリザベスを感じていたいという気持ちを分けることはできない。
今年十六歳になる青年に、高鳴る恋心の入り混じった気持ちを抑えることは難しい。
ましてや、自分の腕の中にいるのだ。手を出さないでいることができるだろうか。
なんとか邪なる心は押し殺し、少しでもエリザベスが話しやすいようにいつものようににっこりと微笑む。
周囲がどのように変わろうとも、ルイにとってエリザベスが一番であることは揺るぎない事実だ。エリザベスがそばにいるだけで、自然と笑みが浮かぶ。
「では、どうぞ」
「どうぞって」
「言っておくけど、何を聞いても驚かないとは言えないけどエリーの味方だからね」
「……うん」
こくりと頷きエリザベスは笑おうとしたが、小さく口端を上げただけで笑えていなかった。
それだけ、エリザベスにとって尊厳にも関わる大事なことなのだろう。
「エリー。僕は君が何よりも大事だから」
「ルイ……」
そう告げると、へにゃりと力なく笑い自分の名を呼ぶ。
そのことにくすぐったさともどかしさを感じながら、この思いが本気であることを知ってほしくてじっと見据えた。
自分を見返す菫色の瞳はゆらゆらと揺れながらも、強い意志を見せる。
ああ、この瞳だ、と心臓がぐっと高鳴った。
はたから見ておかしな行動でも、いつもエリザベスは真剣だった
瞳はひたとそこに据え、達成するまでは手を抜かない。
その瞳にとらわれるたびに、ルイはエリザベスを希求する思いを強くした。
エリザベスのことを知りたいという欲求が止まらない。
昨夜、もし間に合っていなければどうなっていたのか。
それを考えると、胸の痛みなど生ぬるいくらい、暗闇に落とされたような感覚に陥る。
エリザベスがいなければ、ルイはルイとしていられない。そう思うほど、ルイの中でエリザベスの存在は大きい。
エリザベスを失えば、息をすることはできてもそれだけになってしまう。
視線を下げるだけで視界に入るエリザベスの首と手首にうっすらと残った痕をじっと見据え、ルイはエリザベスに気づかれないように眉をしかめた。
ふつふつと怒りがこみ上げるが、それを悟らせるわけにはいかないとゆっくりと息を吐き出す。
怖い思い、不安な時間を過ごした彼女をこれ以上つらい目に合わせたくない。
するりと頬を撫でて、そこにエリザベスがいることを確認する。
滑らかな頬の感触が、ルイの怒りを煽る。
彼女を縛り傷つけた奴らを許す気はない。学園を、国を脅かす存在をこの国の王子として放置するわけにはいかない。
確かめたくて、触れたくて、気持ちのままに少しでも早く良くなってほしいと傷跡をそっと撫でる。
治癒魔法でほぼ治ったとはいえ、痛々しい。白く細い首は、屈強な男が軽く力を入れただけでぽきっと折れてしまいそうだ。
「エリー。教えて」
今までずっと遠いところにいると思っていたエリザベス。
どれだけ近くにいても大事な部分は近寄らせてくれなくて、見せてくれなくて、近寄ればもっと遠いところに行ってしまいそうだった。
『ひっそり。ひっそりが幸せへの道なのよ』
彼女の口癖のようなセリフ。
『こうして野菜作って、たまに木に登って平和な街を眺めて、あんなことやこんなこともあったなって、ああのんびりとしたいい人生だったなっと振り返れるような人生にしたいの』
野菜の苗を一緒に植えていた時に聞いた言葉。
何を思って動くのか。何を考えてそんなことを言うのか。
ずっと不思議だった。心配だった。
だけど、今は立ち止まって手を取ろうとしてくれている。暴いていいと、そこで待ってくれている。
そのことが、どれだけ嬉しいことかエリザベスにはわからないだろう。
エリザベスに告げたように、今すぐこの思いを受け止めてほしいとは思っていない。
いつかはっきりするその時まで醜い嫉妬にかられようとも、この先苦しい思いが待っているのだとしても、彼女が自分を排除しないでくれるだけでいいのだ。
エリザベスに降りかかるつらい思いも、自分が肩代わりできるなら喜んでする。
ルイは切に願う。
何があっても守るから僕を信じて、そして意識して、と。
昨夜の悔しさを忘れないように。
今の思いを忘れないように。
もう、二度と彼女を傷つけさせない!
エリザベスと過ごすようになってから、自分でもコントロールのできない感情をいくつももてあましながら、ルイはエリザベスの柔肌に痛々しく残る傷跡を何度も何度もそっと撫でた。
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