詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第五章 これから

テレゼア公爵家③

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「皆様、そろそろ大広間のほうへ」

 頃合いを見ていた執事が、そこですかさず話に入ってきた。
 先代から勤めている老執事は、よくこの家族のことを理解している。

 一通り家族の儀式を終えたとみなし、いつまでの玄関ホールですることではないと、今日がどんな日であるかを改めて教えてくれる。
 一つタイミングを間違うと、さらに長くなるのでこの見極めは執事ならではだ。

「エリーは最後にルイ殿下と一緒に入ってきてね」
「任せてください」

 マリアの言葉に、ルイが私よりも早く反応する。

「えっ?」
「主役は最後がいいからね」

 姉の言葉に、家族は先に中へと入っていく。
 招待客の出迎えとかはしなくていいのかと戸惑う私をよそに、ルイが手を差し出した。

「お姫様、お手をどうぞ」
「え、ええ」
「大丈夫だよ」

 いつものように穏やかに微笑むルイの手を取ると、騎士が扉を開く。
 問答無用で足を進めて、目の前の光景に目を見張った。

「うそっ」

 思わず声に出すと、ルイがくすりと「サプライズ成功だね」と笑い席へと誘導する。
 サプライズもサプライズ。出迎えするはず来客が先に来ているとはどうなっているのか。

 公爵家令嬢の誕生日。内輪だけといっても誰も呼ばずにはいかないので、数名のクラスメイトに招待状を送っていた。
 目の前にはドリアーヌ、サラ、オリビア、ミアといったよく一緒にいる友人たちはもちろんのこと、シモン、サミュエル、ジャック、エドガーと、王子たち勢ぞろいだ。

 王族の子息が公爵家に揃うのは勢力問題など心配だが、王様じきじき遠慮せず全員招待してもいいよ、むしろ、そのほうが軋轢なくてすむからみたいなことを事前に通達とともにプレゼントも頂いたので、このような豪華なメンバーが揃うことになった。

 ほかにもクラスメイトと、顔と名前だけ知っている人もちらほら見かける。
 年代が近寄った有力貴族も招待されているので、抜かりなくバランスは取っていると思われた。

 ささやかにとお願いしていたのだが、ざっと見て未成年だけで三十人、そして親や従者、ここの使用人や護衛も含めるとなると百人は超えている。
 ちっともささやかではないが、公爵家令嬢として致しかたない。

「母様」
「エリーも年頃ですからね」

 今回を取り仕切ったであろう母に視線を向けると、ぴしゃりと言われる。私を見る視線はこちらの反応をつぶさに観察し逃さぬとばかり。
 私はダラダラと汗をかき、にこっと微笑み後ろに下がろうとしたけどパチンと扇子の音をさせて動くことを許されない。

「逃げてはダメよ。私はマリアに言い聞かせるのは諦めたの。というよりは、あなたをどうするか決めないとマリアが動かないことを思い知らされました。マリアだけでなくあなた次第の案件はいろいろありますし、そろそろ公爵令嬢との自覚を持って動いてもらいますよ。もう十六歳ですものね。あなたも立派なレディよ」

 社交の場を避けまくってきたのを許してきたのだから、そろそろしっかりこなしなさいとの圧力がかかる。
 あとはやはり娘に甘い両親なので、無理強いはせず選択肢を増やさせるため、この機会に場を整えたのだろう。

 仕方がないので腹をくくる。
 この世界に生きると強く決めたのだから、先々のことからも逃げるつもりはない。
 貴族の子女としての義務は理解しているつもりだ。

「わかりました」

 素直に頷くと、母様は驚いたとばかりに目をまん丸にした。失礼な。

 厳選されたであろう彼らは、これから公爵家と私にとってうまく動けばプラスになる人物たち。
 養子はとっておらずこれからも取るつもりはないと言っていたので、将来は私か姉のどちらかが婿を迎え、どちらかは他家に嫁ぐ。
 どうなるにせよ、いつまでも相手を決めないのも問題なので、姉のこともありまずは私から方向性を決めたいのだろうい。

 というか、両親たちはゲストを放っておいて私のもとに駆けつけていたのか。
 我が家の使用人たちが丁重にもてなしてはいるだろうし、大々的なものではなく内輪のものとしているからいいのか。
 なんとなく、テレゼア公爵家だからでまかり通っている気がするけど。

 我が家のあり方を鑑みながら、つくづく今回の両親のこの動きは今までになく変わっているなと、たくさんの人にお祝いの言葉やプレゼントをもらい、一時間後、ようやく人心地がついた。
 やっと自分のペースで公爵家自慢の食事を堪能していると、待ってましたとばかりにすでに挨拶は終わっていた第四王子、第五王子であるジャックとエドガーに手を取られる。

「ねえ、僕たちだけで話たいのだけど」
「静かなところで話がしたいです」
「では、あちらにでも行きますか?」
「「うん」」

 私も昨夜二人が連れていたあの大きな動物たちが気になっていたので、ここでは話せないこともあるし、バルコニーのほうへと移動する。
 やはり顔を合わせて昨夜のことを一つも触れないのは互いに落ち着かない。

 そこに当たり前のように、ルイ、シモン、サミュエルが続くが、周囲は誰も何も言わない。
 昨夜のことは知られているのか、現在の私たちの関係からかは量りかねるけれど今はありがたい。

 すぐさまテーブルと椅子を用意され、五人の王子が私を囲むように座った。
 そこで王子たちから改めて誕生日の祝いをいただき、びっくりするほどのきらきらを全方向から浴びながら、一通り談話したところで昨夜の話、掴んだ情報の交換を行なった。


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