詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第五章 これから

マリアと過ごす夜①

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 母の長い説教に終始にこにこご機嫌なマリアと違い、私は時間が経つごとに憔悴し解放されたころにはへとへとになった。

「母様ったら、終わったことまでもあれやこれや」

 ようやく解放され湯浴みを済ませ少しばかり気分は浮上したが、うむむぅっと口を尖らせベッドに腰掛け足をぷらぷらさせる。
 そうそう。王子たちとの話の内容だが、それなりにいろいろ話すことができた。
 昨夜のことがあったから無駄に過保護になった彼らに構われながら、互いに知りたいことを知れたと思う。

 まず、双子とともにいた動物たちは予想通りキュウとリンリンで合っていた。
 なぜ急成長したかは、私がパールとフリンと名前を付けてしまったから聖獣へと進化したのではとの見解だった。

 急にファンタジー要素が降ってきて驚いたが、この世界の生き物たちはホクロウのことといい、いまだに私もよくわかっていない。
 なので、言われたらそうなのかという感じではあったが、やってしまった感はあった。
 思わずそろそろと窺い見たルイの表情が、またかと呆れたように目を細めて笑っていたので、私はへらっと苦笑で返すしかできなかった。

 でも、知っていても名付けは避けようがなかったと思う。
 拗ねてるとわかる態度は丸っこいフォルムと相まって可愛かったが、あの日はそばから離れないのに何度名前を呼んでもぷいっと二匹ともにそっぽを向かれ困っていた。

 機嫌を取るようにあれこれ試み、彼らは生物名であって個体名ではないことを思い出し、なんとなく彼らにふさわしい名前はと思って軽い気持ちで呼んだだけなのだ。
 その後の喜びようからほんわかするなと和んでいたのだが、名付けがそんな重大だったとは知らなかった。

 もふもふと聖獣。一気にファンタジー感が増えた。
 いや、あんなに小さかったのに人が乗れるほど大きくなるとか誰も想像つかないだろう。やっぱりファンタジーだ。

 あとは、後始末の話。
 結界の掛け直しと強化。捕まえた者は洗脳されていることがわかり、逃げた二人の正体や行方は分からずじまい。敵はどうやら洗脳魔法が使えることがわかった。
 洗脳がどこまでのレベルなのか、今後調べる必要がある。縛りもなく誰彼構わずできてしまうのなら、かなり脅威だ。

 しっかり調べ対策を立てていくとともに、洗脳を弾き返した私の持っているらしき力も同時に調べていくことになった。
 いざという時に役に立たないとかありえないし、自分の力がどこまでのものか把握するのは大事なことだ。

 それについては王妃様から話があるのだとか。
 規模が大きくなってきて不安だが、出来ることがあるなら今からしておくべきなので近々王城に参上することになった。

 いろいろ思い出し目を伏せて思考に入り込もうとしていると、それに待ったをかけるように来訪者がやってきた。
 
「マリア姉様、どうされたんですか?」

 目の前には大きな枕を抱えたマリア。
 状況が指し示すことは一つなのだけど、姉に対して諾々と受け入れる体制は危険なので一応問いかけた。

「もちろんエリーと一緒に寝るためよ」
「やっぱり」

 呆れた表情を隠さない私を前に、マリアは意気揚々と語り出す。

「当たり前じゃない! エリーが不足して、不足して、せっかく屋敷に帰ってきているのだから離れ離れとか考えられないわ。学園に入ってから悲しみの涙で毎夜ベッドが濡れるくらいエリーとの時間が減ったのですから、ここにいるときくらいはいいでしょう? 昨日からいろんなことがあって疲れているかもしれないけれど、もう少し私とお話ししましょう」

 すでに昼間に随分とくっついていたと思うが、ルイに馬車での時間を譲ったり、王子たちと話す際はそっとしてくれていたりと、配慮してくれていたことを考えると拒めない。

「そうですね。私も久しぶりなので姉様とゆっくり過ごしたいです」
「ふふっ。エリーからもそう言ってくれるなんて嬉しいわ。まだ誰のものにもならないでね」
「先に姉様なのでは?」
「あら、やだ。お母様も言ってたでしょう? 私は私が認める相手とエリーの縁談が決まってからでしか自分のことは考えられないわ」
「いえ。姉様の幸せのためでもあるのですから是非とも積極的に考えてください」

 いくらシスコンでも、結婚相手とそれは別だと割り切ってほしい。
 なぜ、当然のようにそこも私ありきなのだろうか。

「だって、ねえ。私たちのどちらかが婿を迎えて公爵家を継ぐことになるのでしょう? そしたらどちらかは嫁ぐことになるもの。それってお相手によって重要なことよ」
「わかっております。まだ具体的には想像つきませんが、ここ数年で具体的に話が進められることは理解はしています」

 年齢順でいくと姉からのはずなのだが母も諦めたし、公爵令嬢の自覚を促されたばかりでこれからはそちらのほうも意識して動いていかなければならないようだ。
 恋とかまだよくわからないしそれだけで成り立つ世界ではないのだけれど、そう考えられるようになったのは今までになく未来を信じている、信じたいと思う気持ちの表れのようで少しだけ心が浮きだった。

 マリアが小さく笑って、私の髪をくるくると指で弄ぶ。
 お揃いの色の髪をマリアはとても気に入っていて、ことあるごとによくいじってくるのはいつものことだ。

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