詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第五章 これから

マリアと過ごす夜②

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「だからね、私はエリーには心の望むままに選んでほしいの。ルイ殿下を始めエリーは殿下たちと仲が良いから、例えば、殿下たちの中だけでも誰になるかでどうなるか変わってくるでしょう?」
「…………」
「あら。ここで否定しないのね。いつもなら何も気づかず一刀両断でそんなことありえないって言うところだったのに。すっかり王族に絆されてしまって。昔はあんなに避けていたのに」

 姉様が怖い。ちょっとの間で、私の心情の変化を読まないでほしい。

「母様に喝を入れられたところですから」
「ふーん。まあ、いいわ。たとえ殿下といえどそう簡単には認めないけれど、エリーの意識を変えただけでもよしとしましょう」

 ちらりと流し目までされて、まさか馬車の中で何があったとか気づかれてる? ……まさかね。

「ちょ、どうしてそんな上から目線? 確かに私は王子殿下たちと仲が良いですし、身分的にもこの先そういった話がないわけではないことはわかっています。ですが、それは姉様も同じですよね? 知ってますよ。様々な権力者が姉様を取り巻いているのを」
「そうねえ。確かに心強い方たちばかりよ。それでも、エリー以上に惹かれる人がいないわ。だったら、やっぱりエリーがしっかり将来の旦那様を見極めてからのほうが私自身も目が向けれると思うのよね」

 ほぅっと艶っぽく息を吐きながら、顎に手を当てる。
 指で遊んでいた私の髪をマリアはひとまとめにして右肩に垂らすようにかけ、自身もお揃いに流すと満足とばかりにふふふっと笑う。

「このまま、私たち二人ともこの家に残って一生独身っていうのも魅力的なのだけど」
「それはさすがに無理ですよね。もし行き遅れて養子を迎えたとしても、お荷物になるようなことはしたくないですし。姉様もそうでしょう?」
「私はエリーがいるだけで幸せだから、どう転ぼうがいいわ。でも、お父様たちを悲しませたくはないので、やっぱりエリーからっていう話なのよねー」

 ねーじゃないですよ! 結局話が元に戻ってきた。
 いつもと同じようなシスコン発言だけど、今夜はやけに真面目というか具体的で、私は混ぜ返す気分でもなく小さく苦笑した。

 マリアの性格や重度のシスコン具合を考えると、確かにって納得させられる。
 それよりも今はそこはかとなく漂う重苦しさ? 簡単に冗談にしてしまえない空気のほうが気にかかった。

 言葉に迷い姉を見つめると、がばりと抱きしめられ押し倒された。──いや、だからどうして? 
 行動はいつも通りすぎて、逆にいつものように気軽に返しにくい。

 ぼすんと二人分の体重がベッドにかかるが、軽く沈んだだけ。
 マリアが、「押し倒しちゃった。一度やってみたかったのよね」と楽しそうに笑う。
 妹を押し倒す姉──、構図的にどうかと思うがそのあとぽんぽんと頭を叩かれ気が抜ける。

「さあ、横になりながら話しましょう。神経は興奮状態でまだ眠くはないかもしれないけど、身体は疲れているはずですからね」

 いそいそと枕を設置し、ベッドの中央に私を誘導するとマリアはぴとりとくっついてきた。
 またか、とこちらも慣れたもので驚きもしない。右側に姉の体温を感じながら、次に姉がどう動くのか何も言わずに待ってみる。

 だが、しばらく無言をつらぬく姉が妙に気になって、耐えきれず私は口を開いた。
 今日は本当に調子が狂う。

「マリア姉様は大丈夫ですか?」

 自分のことばかり心配されているが、マリアも同じように縛られたのだ。
 なんともないと聞いているが、姉のおかげで救助がくるまでの時間も稼げたし、あの場でもシスコンぶりを発揮していたからと言って何も考えていないわけがない。
 疲れているのはマリアも同じだろう。

「そうねぇ。無事・・、エリーが十六歳を迎えたことだし、これからのことも考えると話しておいたほうがいいかしら」
「……何を?」
「大丈夫な理由」
「理由?」

 望むような返答は返ってこなかったが、マリアの中では繋がっているようなので続く言葉を待つ。

「エリーは私の可愛い妹よ。世界でただ一人。あなたが産まれて小さな手で私の指をきゅっと握ってきた時といったら。その可愛さに電撃が走ったわ。絶対そばで必ず守ると誓ったの」
「理由について話すんですよね?」
「ええそうよ。ね、エリー。私たちは両親のおかげで容姿には恵まれてるわよね」
「……そうですね」

 だから、理由についてだよね?
 こうなってしまっては誰も姉を止められないと、マリアの好きなようにさせる。

「それから、どうして私の周りにたくさんの人がいると思う?」
「……? それは姉様が美しいからでは」
「ふふっ。ありがとう。見た目はいいに越したことはないものね。視界から入る情報は人を判断させるのに大部分を占めると思うから。初対面の人ならなおさらね。もちろん、エリーの素晴らしさを一番理解しているのはこの私ですよ」
「はあ…」

 だから、理由!
 大丈夫なのかって聞いたと思うのだけど、今のところどう繋がるかわからない。
 マリアはふふっと甘く微笑んだ。

「エリーは私が大きな怪我も病気もしたことがないのに気づいている? 怪我も擦り傷程度だし、私自身が緑の能力を持ってるおかげでそれはないようなものだし」
「ええ。風邪も引かれたことがないですね」

 言われれば、姉は健康体である。
 私のほうがしょっちゅう熱を出し、擦り傷、切り傷は日常茶飯事であった。

 私が寝込むたびに、マリアは勝手に部屋に忍び込んできてそばを離れようとしなかった。
 ベッドに潜ってくっついてきたり、起きてみると椅子に腰掛けながら手を繋いでいたりと、どれだけ周囲が移る可能性もあるからと止めても姉のその行動は止まらなかった。

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