169 / 185
第二部 第五章 これから
マリアと過ごす夜②
しおりを挟む「だからね、私はエリーには心の望むままに選んでほしいの。ルイ殿下を始めエリーは殿下たちと仲が良いから、例えば、殿下たちの中だけでも誰になるかでどうなるか変わってくるでしょう?」
「…………」
「あら。ここで否定しないのね。いつもなら何も気づかず一刀両断でそんなことありえないって言うところだったのに。すっかり王族に絆されてしまって。昔はあんなに避けていたのに」
姉様が怖い。ちょっとの間で、私の心情の変化を読まないでほしい。
「母様に喝を入れられたところですから」
「ふーん。まあ、いいわ。たとえ殿下といえどそう簡単には認めないけれど、エリーの意識を変えただけでもよしとしましょう」
ちらりと流し目までされて、まさか馬車の中で何があったとか気づかれてる? ……まさかね。
「ちょ、どうしてそんな上から目線? 確かに私は王子殿下たちと仲が良いですし、身分的にもこの先そういった話がないわけではないことはわかっています。ですが、それは姉様も同じですよね? 知ってますよ。様々な権力者が姉様を取り巻いているのを」
「そうねえ。確かに心強い方たちばかりよ。それでも、エリー以上に惹かれる人がいないわ。だったら、やっぱりエリーがしっかり将来の旦那様を見極めてからのほうが私自身も目が向けれると思うのよね」
ほぅっと艶っぽく息を吐きながら、顎に手を当てる。
指で遊んでいた私の髪をマリアはひとまとめにして右肩に垂らすようにかけ、自身もお揃いに流すと満足とばかりにふふふっと笑う。
「このまま、私たち二人ともこの家に残って一生独身っていうのも魅力的なのだけど」
「それはさすがに無理ですよね。もし行き遅れて養子を迎えたとしても、お荷物になるようなことはしたくないですし。姉様もそうでしょう?」
「私はエリーがいるだけで幸せだから、どう転ぼうがいいわ。でも、お父様たちを悲しませたくはないので、やっぱりエリーからっていう話なのよねー」
ねーじゃないですよ! 結局話が元に戻ってきた。
いつもと同じようなシスコン発言だけど、今夜はやけに真面目というか具体的で、私は混ぜ返す気分でもなく小さく苦笑した。
マリアの性格や重度のシスコン具合を考えると、確かにって納得させられる。
それよりも今はそこはかとなく漂う重苦しさ? 簡単に冗談にしてしまえない空気のほうが気にかかった。
言葉に迷い姉を見つめると、がばりと抱きしめられ押し倒された。──いや、だからどうして?
行動はいつも通りすぎて、逆にいつものように気軽に返しにくい。
ぼすんと二人分の体重がベッドにかかるが、軽く沈んだだけ。
マリアが、「押し倒しちゃった。一度やってみたかったのよね」と楽しそうに笑う。
妹を押し倒す姉──、構図的にどうかと思うがそのあとぽんぽんと頭を叩かれ気が抜ける。
「さあ、横になりながら話しましょう。神経は興奮状態でまだ眠くはないかもしれないけど、身体は疲れているはずですからね」
いそいそと枕を設置し、ベッドの中央に私を誘導するとマリアはぴとりとくっついてきた。
またか、とこちらも慣れたもので驚きもしない。右側に姉の体温を感じながら、次に姉がどう動くのか何も言わずに待ってみる。
だが、しばらく無言をつらぬく姉が妙に気になって、耐えきれず私は口を開いた。
今日は本当に調子が狂う。
「マリア姉様は大丈夫ですか?」
自分のことばかり心配されているが、マリアも同じように縛られたのだ。
なんともないと聞いているが、姉のおかげで救助がくるまでの時間も稼げたし、あの場でもシスコンぶりを発揮していたからと言って何も考えていないわけがない。
疲れているのはマリアも同じだろう。
「そうねぇ。無事、エリーが十六歳を迎えたことだし、これからのことも考えると話しておいたほうがいいかしら」
「……何を?」
「大丈夫な理由」
「理由?」
望むような返答は返ってこなかったが、マリアの中では繋がっているようなので続く言葉を待つ。
「エリーは私の可愛い妹よ。世界でただ一人。あなたが産まれて小さな手で私の指をきゅっと握ってきた時といったら。その可愛さに電撃が走ったわ。絶対そばで必ず守ると誓ったの」
「理由について話すんですよね?」
「ええそうよ。ね、エリー。私たちは両親のおかげで容姿には恵まれてるわよね」
「……そうですね」
だから、理由についてだよね?
こうなってしまっては誰も姉を止められないと、マリアの好きなようにさせる。
「それから、どうして私の周りにたくさんの人がいると思う?」
「……? それは姉様が美しいからでは」
「ふふっ。ありがとう。見た目はいいに越したことはないものね。視界から入る情報は人を判断させるのに大部分を占めると思うから。初対面の人ならなおさらね。もちろん、エリーの素晴らしさを一番理解しているのはこの私ですよ」
「はあ…」
だから、理由!
大丈夫なのかって聞いたと思うのだけど、今のところどう繋がるかわからない。
マリアはふふっと甘く微笑んだ。
「エリーは私が大きな怪我も病気もしたことがないのに気づいている? 怪我も擦り傷程度だし、私自身が緑の能力を持ってるおかげでそれはないようなものだし」
「ええ。風邪も引かれたことがないですね」
言われれば、姉は健康体である。
私のほうがしょっちゅう熱を出し、擦り傷、切り傷は日常茶飯事であった。
私が寝込むたびに、マリアは勝手に部屋に忍び込んできてそばを離れようとしなかった。
ベッドに潜ってくっついてきたり、起きてみると椅子に腰掛けながら手を繋いでいたりと、どれだけ周囲が移る可能性もあるからと止めても姉のその行動は止まらなかった。
43
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる