詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
178 / 185
第二部 第五章 これから

閑話 sideマリア 愛しのエリー⑤

しおりを挟む
 
 護衛がひょいひょいっと木に登り、黒猫を取り上げようとした時だった。猫が嫌がるように飛び降りて護衛の肩に乗り、そのまま地面に着地する。
 そのはずみで大きく枝が揺れ、それに驚いたエリザベスが体勢を崩した。

「きゃっ」

 慌てて護衛が腕を伸ばすが間に合わず、そのまま落下していく。

「エリー!」
「お嬢様っ!?」

 周囲は阿鼻叫喚。大事なお嬢様の惨事に心臓が止まりそうになった。
 エリザベスはその下にある太枝に頭と体を打ち付けてワンクッション置けたはいいが、結局そのまま池に落下していく。

 気を取り戻した護衛の風使いが池に浸かる前に魔法をかけて落下する勢いを緩和させたが、体重を浮かしキープするまでにはいかず、エリザベスはやけに静かにぽちゃりと水音とを立てて落ちた。
 ふわりとエリザベスのドレスが広がり地味に沈んでいく。
 少しばかりさっきまでの騒ぎに対して、間抜けな結末だと思わないでもない。

「エリーっ!!」

 それでも大事な愛しのエリザベスが落ちたことには変わらず、マリアは池の縁まで急いで駆け寄った。
 すかさず拾い上げられ連れられたエリザベスに声をかける。
 水浸しになってしまったが、すぐに救い上げられたため数秒ほどのはずだ。

「ふぇ、……けほっ。びっくりしたぁー」

 のほほんと驚きの声を上げるエリザベスにほっと息をついたが、その後の、「つぅ」と呻く言葉に護衛に抱き上げられたエリザベスの顔を慌てて覗き込む。

「どこが痛いの?」
「さっき、頭打ったところが」
「ああ、可哀想なエリー。すぐに医師に見せましょう。あと、身体も温めないと」

 水に浸かったのは一瞬だったとはいえ、冬は越したがまだ寒い。冷たい水に浸かると体温は奪われる。
 案の定、エリザベスはその夜から熱が出て一週間ベッドの上の住人となった。

 エリザベスがひどくうなされているのを見るたびに、マリアも苦しくなる。
 その日の夜から、マリアはひどい夢見のせいで寝られなくなった。

 初めてその夢を見た時は、可愛い可愛いエリザベスが出てきてニマニマしていたマリアだが、だんだん夢の中の雲行きが怪しくなり最後にエリザベスが死んでしまうという悲惨な結末に表情は消えた。
 信じられないと夢に向かって怒っていたが、起きてまた寝ては似たような夢の繰り返し。

 しかも、毎回エリザベスがほぼ十六歳になる前に亡くなるのだ。
 しかもバリエーションが豊かで、そんな豊富さいらないと憤るがどれもこれもリアルで見るたびにマリアは憔悴した。
 夢の中の自分の悲しみも嘆きも、胸が痛すぎて。
 マリアの顔色は日に日に悪くなっていった。

「どういうこと……」

 それらを繰り返し見ているうちに、徐々に怒りの方向も変わる。
 何度繰り返しても結末が変わらないことに嘆くが、それまでに自分に対してちょっと冷たかったりするエリザベスへの嘆きのほうが強くなる。

 もっと私に構ってくれたらそんな結末にはさせないのに、私が守るのにと夢なのに本気であれこれ対策を考え、腹が立ってそしてとっても悲しかった。
 めちゃめっちゃ寂しいし悲しい。
 夢であっても、たとえエリザベス本人が避けていたとしても、私の愛しのエリーとの時間を減らそうとするなんて許すまじっ! 

 独り立ちするにしても早すぎるし、十年後も二十年後もエリザベスの近くにいたい。
 いつまでも、『ねえさまぁ』と甘えにきてほしい。

「エリーったら、ツンなの? ツンツンなの? そんなツレないところも可愛いけれど、これはちょっといただけないわ」

 始めの頃は夢を見るたびに何としてでも倒れていくのを止めたくて、抑えきれない気持ちが溢れて、「エリー!」と必至で名を叫んでいた。
 毎回、頭に何かぶつけるとかもうちょっと注意できないのかと思わないでもないが、どれもこれも難しそうだった。

 だが、ここ最近は夢を見ると、「エリーが相手してくれない~」と悲しみ叫びながら起きることもしばしば。
 やっぱり、もう少し側にいれたらもっとできることがあるのにという怒りにも似た気持ちが止まらない。

 繰り返す夢はしんどくて怖くて、寝ないといけないとわかっていても眠らないように頑張るがいつの間にか眠ってしまって。
 最後にはエリザベスが死んでいくのを助けることもできずに、悔しくて泣き叫ぶ。
 そんなことを繰り返し、マリアは気が狂いそうになった。

 朝起きて心配で様子を見に行くと、熱がなかなか引かず苦しそうにエリザベスが顔を歪めている。
 もしかしてエリザベスも夢見が悪いのではないだろうかと一度でもそう考えると、もし同じ夢だったらと思うと、ぎゅうぎゅう胸が締め付けられた。
 可愛い顔が苦しそうに歪んでいる姿を見ると、あれは本当に夢だったのかとわからなくなった。

 やけに具体的な出来事が見え、自分も周囲も十年後くらいはそうなるよねとリアルな成長の仕方だった。
 もちろん、成長したエリザベスはぎゅうぅっとしたくなるほど可愛かった。

「わたしが守らないと」

 少なくとも、十七歳を超えるまではしっかり見守らないといけない。
 それが繰り返し見る夢のお告げ、使命のように思えた。

 夢であってほしいけれど、あれだけ見るのなら何か意味があるのかもしれない。夢で済ますには、あまりにも非情すぎた。
 歳の差でずっとべったりできないことがわかっているが、その時期は学園にマリアも在席しているのでしっかり見張ればうまくすれば助けることもできるはず。

「今度こそ、わたしが守るからね」

 エリザベスの額に手を当てて、マリアは誓う。
 話しかけてもエリザベスには全く反応もなく、マリアは毛布の下に隠されている手をぎゅっと掴み祈るように目を瞑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...