天牙の華~政略結婚から始まる復讐は、最強の【刀】に至上の恋を教える~

八重

文字の大きさ
55 / 62
第三章

第五十五話「閑話 結月への想い」

しおりを挟む
 朔が琥珀に乗り、飛び出していった様子を眺める凛。

「凛さん、よかったのですか? 朔様を行かせてしまって」

 ゆっくりと姿が小さくなる朔を見つめながら、実桜が凛に聞く。

「ああなるともう、朔様は止めても無駄ですよ」

 実桜が凛のほうを見ると、優しく微笑みながら朔を見つめる姿があった。

「そこまで朔様が、結月を心配してるようには見えなかったですけど……」

 蓮人が駆けてきて乱れていた呼吸をやっと整えて、凛と実桜のもとへ近づく。

「あの方は言葉が少ないだけなんですよ」

「まあ、俺たちもそれは感じてます。でも結月にだけはなんか違うっていうか……」

「遠からず、近からず、といったところでしょうかね」

 蓮人は凛の発言の真意を読めず、首をかしげる。
 実桜も興味深そうに耳を傾けていた。

「先日もそうだったのですが……」

 そういうと、凛はゆっくりと語り始めた。



──────────────────────────────

 凛は結月と妖魔退治の当番の話をするために、結月の自室隣の和室へと向かって廊下を歩いていた。
 すると、凛の対面から美羽が急ぎ足で近づいてくる。
 不思議に思った凛は、美羽に声をかけた。

「美羽さん、そんなに急いでどうしました?」

「あぁ、凛様。結月様が高熱を出されておりまして……」

「結月さんが高熱……、具合は?」

「もう丸一日熱にうなされて目を覚まさないのです」

「丸一日ですか……」

 高熱で丸一日も目が覚めないのは、特に珍しいことではないが、結月の場合は先日力を暴走させ疲弊していた。
 少し不安が凛の中で感じられた。

「美羽さん、このこと朔様には?」

「お伝えしております、わかったと一言だけ仰せになり、職務に向かわれました」

「わかりました。また何か状態がわかれば連絡をください。よろしく頼みます」

「かしこまりました」

 美羽がお辞儀をすると、失礼します、と一言残し、再び足早に去っていった。

(結月さんが高熱ですか……少し心配ですね)

 少しの間、結月のいる自室を見つめると、凛は踵を返して職務に戻ることにした。


──────────────────────────────

 凛が朔の執務室に到着すると、今朝はいなかった朔がすでに執務をはじめていた。

「おはようございます、朔様」

「ああ」

 いつものように言葉数少なく返事をすると、そのまま書き物を進めていく。


 一刻程二人で執務をしていた際、凛は朔の異変に気付いた。

(いつもより朔の執務ペースが遅い……)

 普段であればすでにほぼ執務を一段落終えるところが、まだ三割程度しか進んでいなかった。

(まさか、朔もどこか調子が悪いのでは……)

 主人の体調を心配し、書物を片付けるふりをしながら朔に近づいた。
 すると、そこには真っ白な紙に筆を持ったまま頬杖をつく朔の姿があった。
 さらに朔の足元には、大量のくしゃくしゃに丸められた紙が散乱している。
 
 横顔からでもわかる、放心状態だった。
 しばらくぶりに見た朔の人間らしく悩む姿に、凛は驚きを隠せなかった。
 と同時に、凛は朔がそうなる理由に気が付いた。

(結月さんか……!)

 凛は納得がいったように一つ頷くと、朔に声をかけた。

「朔、薬室(やくしつ)に確か熱に効く薬の貯蔵があったはずです、美羽さんが探していらっしゃったのですが、幾分私は今手が離せず、もしよろしければ美羽さんへご伝言をお願いできますか?」

 凛はわざと『朔』と呼び、友人の頼みであると朔を促した。
 
 一呼吸したあと、朔は凛に告げる。

「少し席を外す」

「はい、わかりました」

 朔も凛の気遣いをわかりながら、表情を変えることなくその場をあとにする。


(可愛い人ですね……)

 普段より早足の朔を見やりながら、微笑んだ。



──────────────────────────────

「朔様が、執務をこなせなくなるほど……」

 蓮人と実桜は驚き、凛を見つめる。

「ええ、まあ朔様の威厳もありましたし、言うのを少しためらいましたが、朔様の人間らしさも知ってもらいたくて」

「意外です」

 実桜が言葉少なめに告げる。

「朔様が誰より心配しているのは、結月さんのことなのかもしれませんね」

 姿が見えなくなった朔を思い、凛はふっと一息吐いた。

 内緒ですよ?、と二人に告げて、凛は朔たちの帰還を信じて治療の準備に向かった──

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...